5963声 大きなこども

2024年10月04日

群馬県庁で行われた「タイムカプセルプロジェクトトーク」に参加した。このプロジェクトは元々は前橋市の美術館・アーツ前橋が「表現の森」という名でアーティストと市内施設等の協働を進めていく幾つかのプロジェクトの中の1つだった(僕は当時は、別プロジェクトの撮影者として参加していた)。アーツ前橋が離れた今も、企業からの支援などを得て活動を続けている。なんで県庁でやるのかなと思っていたが、アーツカウンシル前橋の支援を受けるようになったゆえの報告会と冒頭で聞き、なるほどと理解した。

市内に「のぞみの家」という母子支援施設がある。夫のDVなどにより家で暮らせない母子が、自分らしく生きていくための支援を行う施設だ。ここに、イタリアを拠点とするアーティスト・廣瀬智央さんと、前橋で多くの作品を発表してきた後藤朋美さん2人が(現在も)年に数回訪れている。施設で暮らすこどもたちと接し、イタリアと前橋とで空の写真を撮って交換したり、ピザが食べたいというこどもの話から本格的な窯焼きピザを釜ごと持ち込んで焼いたりしている。タイム~は2016年からはじまり、都度ごとに関係をもった写真や文章をタイムカプセルに込めて、発足時にいたこどもが成人になる2035年に皆で開けようというプロジェクトとなる。

2016年のアーツ前橋展覧会「表現の森」で見たのぞみの家プロジェクトの展示物は、とても静かなものだった。のぞみの家はプライバシー厳守。こどもの顔もわからない。壁に貼られているのはいわゆる芸術です!ではなく誰が撮ったとも知らない空の写真。関係性そのものがアートだ、と言うは優しいが、目にみえないそれを想像で補うのは難しい。でも、あったかくて良い試みだなと思った記憶はある。

今日の報告会の中で後藤さんが「訪問時に、こどもは前、おとなは後ろに並んで。という時があって、後ろにいたら前にいた女の子に「ごっとん(後藤さんのこと)は大きなこどもでしょ(だから前に来て)」と声をかけられてとても嬉しかった」という話をした。その話だけで、後藤さんがこどもが関わってきた時間を想像できる。そういう小さな瞬間が、いくつも起きているんだろうと思った。そしてそれは目には見えないが、僕が思うにはそれは、変えの効かない素晴らしいアートであるのだ。