営業ではなく、開演なのだ
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たくさんの人がこの人に会うためにやって来る
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満席になってギターを取り出したら始まる、独演会
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ブルースマンでもある
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800円。信じがたい値段
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最初にお店に行ったときに、ギターの弾き語りを披露してくれた。次に行ったときは、酔っ払っていた。その次も。4回目でやっと、料理にありつくことが出来た。
薄(うすき)さんはそのくらいの頻度で、料理人である。
桐生の目抜き通り、本町通りを上って有鄰館を越えると、右側に小さな山小屋のようなお店がある。店の名は「南座」。名前の由来はあの、京都の有名な劇場である。
薄さんはいつだって、人を楽しませることに貪欲だ。存外もっとも楽しませたい対象は、薄さん本人なのかもしれないと思うこともある。
「ねぇ、これ見てよ」ピンク色の石を見せてくれた。「きれいでしょう。桐生の山は、こういう石がゴロゴロ転がっているんだよね。ニートだとか仕事がないなんて言ってる若いやつを連れて行きたいね」薄さんは教師でもある。中学で英語を教えていた経歴の持ち主だ。
山登りをよくする。谷川岳の山小屋で、何ヶ月も小屋番をしていたこともあるのだという。「あれさぁ、人と会わないとおかしくなるね」こういうエピソードの一つ一つが腹を抱えるほどの面白さなのだ。「結局寂しくなって下りてきたんだけどさぁ」
自由人もこうなると一流。およそ予定調和を好まない。常識を見事に壊して、平然としている。だからいつも周りは人だかりである。みんなきっと、人生のコツを教わりに来てるのかもしれない。
(文: 堀澤 宏之) |