第1回「地蔵峠とカンカン帽のよなよな狂い咲き」

2010年08月02日

自分の中の「狂」に触れてみる。
そしてそれを、「興」として咲かせる。
自分で書いたこの言葉の意味を探しつつ、
黄昏迫る前橋駅のホームに独り、佇んでいた。
桐生行きの電車内には、この日、
沿線各地で開催されている祭りに行くのであろうか、
浴衣姿の男女がひしめき合っている。
吊皮を掴んでいる私の横、ほのかに、懐かしい香水の香。
「はっ」として、首を横に向けると、そこには、知らない女性のうなじ。
停車中の伊勢崎駅で、参加者と合流し、桐生駅へ着いて、残りの参加者と合流。
最終的に総勢は7人を数えた。
この「最終的に」ってのは、本企画を目当てとしていなく、
あくまで「八木節祭り」として来た方が、参加者の呼びかけにより、
後から合流して下さった。
しかし、私たちの目的は一緒だった。
つまり、八木節祭りにおける「狂い咲き」である。
桐生駅を出た私たちは、未だ陽の高い街を、路地へと入り込む。
まず、私も以前一度案内された事のある、老舗焼き鳥屋の暖簾をくぐる。
ほのじ氏は、桐生に来るとこの店で一杯飲まないと気が済まないらしい。
喉を潤して、次に向かうは、ビアガーデンである。
ビルの屋上に揺れる、提灯を見ると、どうも吸い寄せられてしまう。
屋上の席は、眼下に広がる桐生の町を一望できる。
夕焼け色が溶けた
本町5丁目に設置された櫓の周りで、踊った。
桐生合流組に桐生人の方が居たので、その方を師と仰ぎ、踊り方を教えて頂いた。
もう10分も踊れば、心臓の鼓動も八木節のリズムで脈打っているかの如く、
体が自然と動いて、櫓の周りを周って行く。
毎年気になっていたのが、踊り手の掛け声。
今年こそは覚えようと、踊りながら耳を澄まして聞いていた。
いささか間違っているかもしれないが、私にはこう聞こえた。
「小原庄助さんはぁ、なんで身上潰したぁ」
「朝っ寝、朝っ酒、女が大好きでぇ、それで身上潰したぁ」
「あーもっともだぁ、もっともだぁ」
「いいや違う、いや違うぅ、あっそれぇ、いいやそうだ、いやそうだぁ」
「祭っりだ、祭っりだ、桐生の祭っりだぇぃ」
これを皆、大声で歌う。
可愛らしい小学生から、素敵な老境の御仁まで、汗みずくの真っ赤な顔して、
「朝っ寝、朝っ酒、女が大好きでぇ」
と歌うのである。
こんな素晴らしい光景は、群馬県内の祭りに類を見ない。
まさに、「狂」を「興」としていた。
「狂い咲き」
酔眼と汗に滲んだ目の前の光景に、それを見た。
櫓の周りで妖しく蠢きながら、よなよな狂い咲いた、花たち。
桐生に咲いた花は、なんと妖艶で、なんと扇情的で、
なんと浮世離れした色の花だったか。
筆舌に尽くし難い。
 
櫓の近くで踊っているのは、ひっつめ髪にねじり鉢巻きを巻いた、姐御風なお姉さん。
胸に巻いたサラシの白さが、どうにも目に焼き付いている。
羞恥をかみ殺して蛇足する。
帰路の途中、私、財布を無くしてしまった。
しかし、浴衣用の財布なので、中にはスイカ(食べる方じゃなくて)と現金のみ。
駅から、雪駄を引きずって、とぼとぼ帰る途中、思い出していたのは、
本企画の告知で書いた文章。
「そこで何かを得る。そして、金を失う」
書いたばっかりに、本当になってしまった。
いささか高くついた一夜だったが、因果応報である。
とほほ。