これを見ながら用を足す
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暖簾に「群馬」の文字。これも郷土愛か
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頼んだわけではなく、これが出てきます
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いい人です
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枯山水。バンカーじゃない
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初めての店に入るときは心配する。
たとえば私がまずい料理を出されて腹の立つ人だったら、料理がうまいかどうかを心配するだろうし、とにかく安く飲みたい人だったら、料金が高くないかを心配するかもしれない。それでいったい何を心配しているのかというと、その店に自分が馴染めるかどうか。
店に入って嫌な予感がしたとして、間髪入れずにくるりとUターンはなかなかできない。もちろん席に座ってから気づくこともある。すぐに立つのもなんだから、つい早飲みをして足早に店を後にする。こんなときの勘定を、手切れ金と言う。
関係を終わりにもできるもの、というのがお金の有難さでもあるが、これはあまり有難くない有難さである。それが続けば無力感ばかりが募るだろう。だから逆に、そういう心配を忘れて飲ませてくれるような店に出会ったときは嬉しいものだ。有難さの沁みる瞬間である。
「パパライオン」はそんな店だった。名前のわりにおでん屋で、おでん屋なのにお通しがおでんという、しかもお通しなのに大盛りで、こういうのはまた違った意味で有難い。
パパは厨房に居るらしいが見かけたことはない。もちろん人間である。ママは接客をしてくれる。笑顔の接客にお客の胸襟は開く。ほんのり頬を赤くして、「お酒を飲むと調子が出るの」と言っている。どちらかというとママはトラのようだ。
(文: 堀澤 宏之) |