飲んでるときはご注意ください
|
暮れて咲く ふと見上げれば あじさいの花
|
これはもう職人技です
|
この看板が目印
|
キミ達いい店を知ってるね
|
|
|
さながら料理劇である。
「空気を入れてね、そうそう上手」「手前にポン、手前にポン、ね」それぞれの手順のポイントを、簡潔な言葉で説明してゆく。こちらの技術が追いつかなければ、忙しい接客の合間を縫ってその奥義を披露してくれる。釘付けになる私。あじさいのママは、エンターティナーである。
前橋市千代田町4丁目。(33)2522。「最初は純喫茶だったの」と渡されたマッチ箱の住所と電話番号には、番地と市外局番がない。それはそういうもので差し支えはなかった頃に、あじさいはできた。店を構えて30年以上になるという。
月島仕込みの正統派もんじゃも、手作り濃醇ソースでいただくお好み焼きも、他では食べたことがないと思うくらい、おいしい。何より私は、焼きそばに感動した。そのインパクトは、もはやB級にあらず。納得のいく食材を、手抜かりなく理詰めで調理していったとき、そこにおいしい料理が生まれる。一朝一夕になるものでなく、ここに職人としての、面目躍如がある。焼きそばを見直した。
もんじゃやお好み焼きは、いつも懐かしい味を代表する。そのベクトルは過去にしか向いていないように思えて、これからをなんとかしたくて仕方なかった若い頃には、好きになれないこともあった。洗練とは程遠いイメージが、貧しさと同居してしまいそうで嫌だった。でもあじさいの料理は違う。全部、未来を向いている。
(文: 堀澤 宏之) |