 トップの座を維持したまま引退
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 目の前に運ばれてきたすべてのメニューが想像を超えていた
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 暖簾をくぐるところからわくわくしたものだ
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 これは盛り合わせではない
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 いつ行っても一杯だった
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食べ物がおいしくなっていると思う。外食チェーン然り、インスタント食品然り。値段も驚くほど安いものがある。100円に消費税でかけうどんが食べられる店なんて夢のような話だ。定員はアルバイトでもそこそこ気を回している。笑顔でもある。
企業努力の凄まじさに恐れ入ることしばしば。それでもどういうわけか、感じ入りはしない。
早い、安い、うまい、がよい店の条件だった時代があった。もちろんそれは今も変わらない。今はそれに、居心地がいい、というのが付け加わる。掃除が行き届いているか、接客が気が利いているか、しつらえのセンスがいいか、禁煙であるか、など。万事揃って、頭を抱える。
なぜだか知らないけれど。
その店はまず、とんでもなく安かった。安いにこしたことはない。でも安いときにはたいがいからくりがあるものだ。たとえば出来合いを温めただけであるとか。
初めて行ったときに「ハムカツ(180円)」を頼んだことを今でも覚えている。分厚いハムカツが3枚、揚げたての雰囲気満点で出てきた。見るからにおいしそうで、食べてますますおいしかった。
次に行ったときは「いかさし(260円)」を頼んだ。出てきたのはいかさしの隣にマグロが3切れ乗っているいかさしだった。
なぜだか知らないけれど。
料理が運ばれてくるたびに嬉しくなったことを思い出す。2009年6月25日、この店は閉店した。
(文: 堀澤 宏之) |