 赤城山の生貯、これがいい
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 若かりし日々 昔の女性は瀟洒である
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 「なぜか」、の理由は、「店の屋号は思いが強すぎるから」、だとか
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 赤がお似合いですよぉ
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 暖簾の向こうに歴史あり
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店構えは、古いけれど小奇麗なのがいい。間口は、少し狭い方がいい。酔ってはいても、いつも入りたくなる店というのには共通点がある。
夜が更けて人通りの少ない前橋の市街地。前橋スズランと、隣接するシューズ館の間の細い道を南へ入ると、これもまたその共通点の一つになりそうな、控えめに光る赤ちょうちんが見える。
店の入り口に、闇夜を照らす小さな看板。そこに書いてあった、「なぜか満月」の文字。なぜか、「なぜか」である。
屋号というのは、お客さんに対するその店のメッセージである。そのメッセージに「なぜか」という「問い」をつけるというのは、二重の意味でメッセージを発しているということだ。たとえていうならば、自分が怒っている理由を確認しながら相手を罵る、ようなもんである。
そんな芸当のできる主は、女性であった。ずいぶんと年増でもある。ぱっと見て人相が悪ければ店に入れないこともあるというママは、この店を初めて47年目になるのだという。開店が昭和30年代ということか。驚くことだらけで、なぜか、うれしくなった。
この街で生きてこられたママの歴史を聞きながら、お酒が進む。手作りのぜんまいの煮付けは、なんとも言えずに味が沁みていた。
夜の寒さは月を明るくする。月はやはり、満月がいい。
(文: 堀澤 宏之) |