 やきとり屋なのに店名は魚新
|
 マスターの大きな体には少し狭い?調理場
|
 名物「ポテトフライ」 その昔は「神社コロッケ」と双璧をなしていたという
|
 若き日のマスターも見守る
|
 まずはみなさんこれで
|
|
|
料理がうまい。ただただ安い。ボリュームが桁はずれ。名店の定義もいろいろだが、この店の名店たるところはまず、見つけにくい、ということである。
戦前から伊勢崎の夜を支えてきた緑町は、織物文化とともに歩んできた。往時は、「肩がぶっつくくれぇ人が歩いていた」というくらいに賑わっていた酔街である。夕方になれば、店の二階から三味線の音が聞こえてきたそうだ。路地を歩いていると今にもそんな音が聞こえてくるような気分になる。
この町のご馳走の一つは、店で飲んでいるとそうした昔を知る人に会えることである。目を輝かせて語ってくれる話をつまみにやっていると、ついつい飲みすぎてしまう。
今回紹介する魚新は、その路地のさらにまた奥に、ぽつんとある。
酔街というのはどこも狭い路地で構成されているもので、路地は狭ければ狭いほど、そこに文化が濃厚に息づいていた証でもある。なにがうれしくて路地を歩くのかというと、そこにあふれ出る人間営為の実感があるからである。路地が心細いようでは、魚新を見つけることは難しい。その路地の狭さを頼りにできるものだけが、この店に辿り着ける。
暖簾をくぐると、5人も座れば一杯のカウンター。お通しは定番、キャベツときゅうりの浅漬け。口始めに生中で乾杯。また今夜も緑町の夜が始まってしまった。
(文: 堀澤 宏之) |