住宅街にそびえる煙突
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「コインランドリー」の緑全ベタ白ヌキ看板が放つ、圧倒的な存在感
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褪せた紺暖簾は生涯現役選手の証拠
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これまた古い元気ハツラツ
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経年が染み込んだ浴室
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穏かな夕方の住宅街。路地から路地へ、手拭い片手に銭湯を探し歩いている私。滲み出した秋の陽が、辺りの空気を橙色に染め始めていた。程なく、屋根瓦の向こうに古びた煙突を見つけ、一先ず安心。細く煤けたその煙突は、大儀そうに黒煙を吐き出していた。近づいて正面の暖簾を見た瞬間、「ここだったのか」と思った。途切れていた糸は一瞬にして結ばれ、記憶として甦った。
それは異なる時期のJR両毛線の車内。電車は新前橋から前橋、或いは前橋から新前橋に向っていた。ぼんやりと車窓風景を眺めている。すると、軒の低い家並みの住宅街には異様とも言える、黒煙を吐く煙突が聳え立っていた。煙突の下には、入り口に紺暖簾が揺れる建物。眺めながら、「あんな所に銭湯か」などと大して気にも留めずに一瞥。その時の銭湯が、この「千歳湯」だったのである。偶然の再会に、どこか必然の因果を感じつつ、随分と褪せて痛んだ紺暖簾をくぐる。
こじんまりとした脱衣場に入ると、扇風機とテレビだけがぼんやりと仕事をしていた。番台に姿を現したおじいちゃんに、360円を支払う。積んである脱衣籠は籐、ロッカーは小型で鉄製の物が一つ。浴室へ入るとかなりタイルはくだびれており、所々剥げている。カランは右に5基、左に5基でシャワー無し。浴槽は一つで深、浅でしきり、ジェット噴射無し。湯温は激熱。
上がって一息、瓶牛乳。製造は森永。
(文: 抜井 諒一) |