3727声 風の波紋

2016年03月27日

突如東京での撮影仕事が入り、せっかく東京さ来ただということで、前々から見たかった小林茂監督によるドキュメンタリー『風の波紋』を観に渋谷に寄った。

 

新潟県越後妻有。積雪が家を飲み込むような山里の暮らしを5年かけて撮影した今作。茅場から刈りだした茅で屋根を葺いたり、桜の枝で生糸を染め娘の成人式の着物生地を手織りしたり、よくわからねぇから使わねえと無農薬で田んぼをやったり、かわいがってきたヤギをしめて皆で食べたり。それら暮らしに肉薄しながらも、所々では寸劇が入ったり、田んぼを背に獅子舞が舞ったり、地に沿ったファンタジーとでもいうべき印象的なシーンが重なり合う。傑作だった。

 

東京だけが未来じゃない。経済の成長を追うことに疑問を感じ、地方を見直そう、地方の方がいいじゃないか、という声は年々強くなってきているように思う。こと映像についても、地域が自らブランディングをかかげ、かっこいい映像や音楽と共に美しい農村風景がコマーシャルされることもある。そういったものも必要とは思うが、たとえセンスとしては古いところがあっても『風の波紋』のように踏み込んだ作品は、強い。大げさに言えば、これを観た誰かが、越後妻有の未来に関わる予感さえする。

 

越後妻有といえば、大地の芸術祭でも知られる。この映画の登場人物の一人である、芸術祭を機にこの地へ移住してきた天野季子さんが歌う主題歌「めざめ」が良い。エンディング近く、この曲と共に神々しく、日に照らされていく山々を見て、僕も何か目が覚めた気がしている。

 

風の波紋
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