高崎市内の銭湯でも、特にここ「藤守湯」の湯は熱い。
その所為か、浴室内の人は皆、小気味良く湯を浴びている。
サッと熱い湯に入り、サッと汗をかいて、サッと拭いて出て行く。
常連さんたちは、熱い湯との付き合い方が上手い。
爽快に湯を浴びる方法を、心得ているのだ。
その伝で行けば、私などはまだまだ修行が足りない。
烏の行水で、何度も出たり入ったり。
夜も深い時間。
人気の無い浴室、貸し切り状態で、足を伸ばして浸かる湯船。
湯気の満ちる浴室に流れるBGMは、軽快なJAZZ。
浴室の硝子戸に貼ってある、逆さクラゲの温泉マーク。
おそらく、手作りのシールであろう。
その愛嬌ある、凸凹の温泉マークを眺めながら、考える。
明日は会社だな。
そんな事は些細な事。
本が余り売れてないな。
そんな事は些細な事。
財布が随分と薄くなったな。
そんな事は些細な事。
私が一向にモテないのはどういう訳か。
そんな事は些細な事。
そう言えば、今日はフルーツ牛乳が残っているだろうか。
それが今は重要な事。
不意に硝子戸が空いて、お爺ちゃんが独り。
あらあら、背中にトクホン貼ったままだ。

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