893声 牛丼チェーン、路上のキーチェーン

2010年06月11日

夕方から電車で出掛けたのだが、金曜の夕方ともなると、高校生が多い。
ホームに立っていると、向いのホームで待っている高校生。
皆、一列になって、ワイシャツの白、スラックスの黒、さながらピアノの鍵盤の様である。
しかしこのピアノは、弾かなくても、際限なく鳴っている。
電車ではまず、所用で桐生市、そして伊勢崎市を回り、
何とか終電に滑りこんで帰って来た。
ほろ酔いで、最寄駅。
真っ直ぐ家路に、着ける訳が無い。
行きつけの店から、未来の行きつけ候補の店へ、梯子式に千鳥足を進める。
気付けば、夜も深い時間と相成って、とぼとぼと牛丼チェーン店の前。
街頭に照らされ、鈍く光る路上の紐。
手に取って見てみると、自転車のキーチェーン。
その3桁のダイヤルロック式のキーを、私は簡単に開ける頃が出来た。
だって、私の鍵だから。
そう、このキーチェーン、あれはひと月ほど前だと記憶するが、
夜半、この牛丼チェーン店に寄って、自転車で帰宅した事がある。
翌朝、自転車を見てみると、キーチェーンが無い。
おそらく、あの店。
と思ったのだが、捨て置いて、新しいキーチェーンを購入した。
今拾ったのは、あの時に落とした、キーチェーンなのである。
ひと月も、風雨に晒されながら、路上に横たわっていたのだ。
奇妙な再会に驚きつつ、キーチェーンに謝罪し、拾って帰路に着く。
行方不明になった妻が、行く歳月を経て、ようやく家へ帰ってくれば、
夫は既に再婚していた。
そんな昼ドラの様な筋書きを思わせる、一件。
キーチェーン二人の関係が、泥沼化せぬか危惧しつつ、牛丼チェーンを後にした。