1308声 蓮池の侵入者

2011年07月31日

目が覚めた。
とても、うるさくて。
ガリガリと、暗がりでらうるさく振動している物の方へ手を伸ばし、
その震源物を掴んで、ボタンを押す。
寝ぼけ眼で耳へ当てると、落ち着きを取り戻した携帯電話からは、聞き覚えのある声。
いい加減な返事を重ねて会話を終え、一息つく。
しばらくして、ようやく状況が呑み込めた。

今朝。
蓮の花でひとつ俳句でも、と言う句会があった事を思い出した。
「蓮の花」であるから、その咲き始めを見ようとすれば、当然、早朝と言う事になる。
句会の披講者いないので、「是非、来い」と、主催者に言われていたのであった。
早朝なので、気が重たく、参加の返事を伸ばし伸ばしにしていたら、今朝になってしまった。
しかし、いま起きてしまったらのだから、仕様が無い。
句帳と歳時記をポケットに押し込んで、しぶしぶドアを開けて一歩踏み出した。

早朝の道路は、すれ違う車など無く、かつまた、朝の涼しい空気が流れていて、とても心地好い。
窓を全開にして車を駆って行くと、徐々に、脳内も覚醒してきた。
前橋市の外れにある現地へ着いて、参加者一同に挨拶。
用水路と田の畔道を歩き、吟行地である一枚の蓮池へ到着した。
着くと、既に先生は到着していて、蓮池を前に腕を組んで立っていた。
朝の光と、蓮池の華やぎの中、なんだか仏教的な荘厳な印象であった。
それを句にすると怒られそうなので、仏像、いや、先生へ挨拶し、
蓮池の周りを小一時間ばかり吟行した。
蓮池を歩き回っている人間が、どうにも蓮の世界への侵入者の如く見えた。

主催の家へ戻り、朝食後に句会。
今回は、初めて俳句を詠む方や、初めて会う女流俳人の方も二人参加されており、
とても新鮮な句が見られた。
自分自身に於いても、早朝から句作する事など、泊りがけで吟行にでも行かない限り、
日常生活の中では、滅多に無い。
なので、清々しい朝の光の中で、俳句を作る事自体が、ちと新鮮だった。

句の出来はまずまずだったが、蓮池の中で朝の空気が吸えただけでも、
とても満たされた気持ちになった。
朝日に照らされて咲き初む蓮の花は、なんとも清浄な雰囲気を感じさせる、
綺麗な淡い色合いであった。
しぶしぶ家を出て来た気持ちを一転させ、帰る頃には、「吟行は朝に限る」なんて思っていた。
蓮の花が咲いて、浮世の街もどうやら今日の活動を始めた気配。

【天候】
朝より小雨混じりの曇り。
終日、曇りがちで過ごしやすい気候。