列車は東京へ向かっている。
私は今日、浅草で開かれる句会を目指し、上京している。
吟行地である浅草に着く前に、列車内で、過去に訪れた浅草の風景を想像し、
句を作っている。
つまりは、少し「拵えて」行こうと言う算段なのである。
句会に際して、句を拵えて行く事を、私は好まない。
折角、浅草が吟行地であるので、当日の浅草を詠んで、
投句するのが筋であると思う。
その筋を曲げざるを得ないのには、理由がある。
至極単純に、寝坊したので、どんなに急いでも、
浅草到着が投句締め切り間近になってしまう行程なのである。
なので、この車窓の風景が一切目に入れず、
瞼を閉じて思い出の浅草に浸らねばならぬ羽目になってしまった。
上野駅へ到着し、上手い具合にメトロを乗り継げたので、
食事の時間を抜かして、30分ほど浅草を吟行出来た。
師走の浅草、仲見世から浅草寺はほど良い人出具合で、
暦売りの威勢の好い口上が響いていた。
香煙吸われ行く冬の青空の下、人力車夫の句やらおでん屋台の句やら、
浅草らしい句を、嘱目である五句揃えて、急ぎ足で句会場へ向かった。
協会の「東京部会・神奈川部会合同句会」と言うことなので、
群馬からの参加者はどうやら私のみの様子だった。
会場にはおよそ百五十人の参加者がおり、これだけ人数がいると、
選句するのにも骨が折れる。
選句の前に、「立川志の春」さんの落語があり、
実はこれが参加する大きな動機でもあった。
一般披講も、およそ百五十人もいれば、一苦労である。
今回は、全くふるわなかったが、上手い句や面白い句が沢山発見できたので、
満足であった。
選者披講では、おまけ程度に一句だけ入選していた。
志の春さんも選句してから帰られたようで、私の句がひとつ入っていた。
句会が終わり、浅草、上野、とどめに新宿で飲んで、終電で帰って来た。
忘年会が佳境を迎えており、どの店も混んでいたが、私にように立ち呑みだとか、
怪しげな赤提灯だとは、割とすんなり入れた。
終電に乗るべく、千鳥足を進めていると、東口駅前は騒然としていた。
みなが見上げている夜空を仰ぐと、いままさに、月触の最中で月がどんどん欠けていた。
帰りの列車内で、月蝕の句を作ろうとしたが、いつしか寝てしまって、
句帖を握りしめたまま終点だった。
【天候】
終日、冬日和