中之条の街角でも、今の時期若者が「高崎」などと書かれたスケッチブックを掲げていて、
おっ!と思うことがある。
そういう事はしたこともないし、乗せたこともないのだが、
勇気があるなぁと思いつつ、決まりきった旅行とは違う楽しさがあるんだろうなぁと思う。
もうずいぶん前の話。
隣町へかかる橋の手前で、やや年のいった女性が、信号待ちの車の窓を一台一台叩く。
窓を開けると「隣町の病院まで載せてくれませんか?」と言う。困惑しつつも乗せた。
ある日を境に、ちょうどいい時間帯の路線バスが走らなくなり、車も乗れずあてもないので、
朝行き来する車を止めて乗せてもらっているのだという。色々にくたびれたような女性だった。
「それは大変ですね」と言いつつも、正直「やっかいだな」と思う自分がいる。
その後も信号待ちの際に何度か窓を叩いて歩く女性を見たが、
彼女が車に乗る場面を見ることはなかった。
僕は信号機のタイミングで通り過ぎるのがほとんどだったが、
2回ほどタイミングが合い、一度は乗せて、一度は無視した。
ほとんどの人は善良であると思う。
朝、ふいに車の窓が叩かれ、ふいに善意が試される。
通り過ぎる人を責めることなどできない。
昨年の冬あたりからか、その女性をまったく見なくなった。
送る車が見つかったのか、違うのか、どうなったのかはわからない。
その場所を通るたび、心がちょっとざわつく。