2247声 死ぬふりだけでやめとけや

2014年05月18日

草津温泉の繁華街から少し離れた山の中、
熊笹に囲まれた静かな区域に、
ハンセン病療養所、栗生楽泉園はある。

 

日本映画学校在学時に、同ゼミ生が
ここを舞台に『熊笹の遺言』という
ドキュメンタリーを制作した。
その作品の主人公でもあり、
ハンセン病原告団会長でもあった
谺雄二さんが今月亡くなったことを受け、
『熊笹の遺言』の今田監督と共に久しぶりに
栗生楽泉園を尋ねた。

 

ハンセン病には差別と闘いの歴史がある。
「重監房」と呼ばれた特別病室・・
いや、刑務所よりひどい隔離小屋というか、
その「重監房」を再現した資料館も
今年の春から開館していた。
今からおよそ100年前、
ここに隔離されたハンセン病患者が、
コンクリートの無機質な狭い部屋に
閉じ込められ、冬はマイナス18度にもなる中、
次々に死んでいったという現実を
建物として再現された「重監房」や
再現VTRなどとともに知ることができる。

 

この資料館の完成は、自身が先頭になって
自らの病やそれに対する偏見、記憶の風化に
立ち向かってきた谺さんの念願だったという。

 

『熊笹の遺言』は、差別や闘いの悲しみを
映すとともに、彼らの日常生活にも注目し、
ハンセン病が対岸の火事ではないことを
知らせようとしたドキュメンタリーであったと思う。
10年前に比べ入所者が半分近くに減った
楽泉園には、今日も穏やかな時間が流れていた。

 

谺さんの活動を最も近くで支えていた方より、
この春刊行された谺雄二詩文集をいただいた。
細かい文字で381ページ、ずっしり重い。
そのタイトルは、

 

「死ぬふりだけでやめとけや」

 

天気の良い午後だった。熊笹が、風に揺れた。