ラーメンを啜る音が、店に響く。
顔を上げて、もう一度、静かな店内を見渡す。
やはり、いつもより広く感じる。
「暇だよ」
と、欠伸を噛み殺して厨房から歩いて来たのは、幼馴染の友人である。
友人は、工業団地に位置している、この定食屋の倅。
そう遠くない将来、二代目として店を切り盛りして行く筈の男だ。
「あぁ、工場が週休3日になったんだって」
私も、この工業団地にも漏れなく、不況の煽りが来ている事は知っている。
「そー、六月からさー、4日になるトコあるらしーんだってー」
コシのあるラーメンを茹でているくせに、声音には腰が入っていない。
「4日かよ」
週に、休んでいる日の方が多い計算。
「4日は、良いなぁ」
などと、私などは怠惰かつ能天気人間なので、率直な感想を述べてしまった。
「良くねぇよ、良くねぇ、良くねぇ」
溜息と共に、煙草の煙を吐き出す友人。
いつも着ている白い調理服が、今日はいつにもまして、白い。
昼時、時刻は12時30分。
いつもなら、作業服の男衆でひしめき合っている時間。
それが、今日の店内。
先程、入って来た2人連れの女工さんと、奥の座敷にいる老夫婦のみ。
私は、いつもと変わらない味のラーメンを、確かめる様に、
一口一口慎重に啜った。