「バックは」
一挙に血の気が引いて行く心地。
部屋のどこを探しても、背負っていたバックパックが無いのである。
ひとまず、ベットに腰かけて缶麦酒を一口すする。
ホテルにチェックインした時点から、記憶を巻き戻して見るが、
酔いの回った記憶はもはや、砂浜の足跡のごとくであった。
残されている思考力を全て動員し、現場を突き止めねばならない。
重要なのはバックを「置いた場所」である。
チェックインする時、駅のトイレに行った時、列車に乗った時。
「列車に」と、来たところで記憶の中の捜査犬が吠える。
この犬も酔っているので定かではないが、乗車した際に、
網棚の上にバックを置いた。
どうやら、あやしいのはその場所である。
すぐさまジーンズに足を通して、札幌駅へ向かった。
駅構内の「忘れもの」窓口にたどり着くまで、
どのくらいの時間を経たのか定かではないが、
窓口の係員が親切な人だったことは、しっかりと覚えている。
結局、「赤色」と言う単純かつ派手な色が幸いしたのか、
バックは誰にも持って行かれず、初めて名前を聞く、
E駅に先ほど保管されたとのこと。
23時を回っていたので、本日中の回収が難しく、
帰りの時間との兼ね合いもあるので、図々しくも郵送をお願いした。
貴重品の類は全て手持ちの小型バックに入れていたので、
無くなっても大事には至らなかったが、
着替えは一個もなくなってしまった。
酔った若者たちのあふれる構内をとぼとぼと帰りつつ、
コンビニへで下着と缶麦酒を買ってホテルへ戻った。
その後、バックより早く帰ってきた持ち主は、この文章を書きつつ、
北海道から赤いバックの帰りを心待ちにしている。

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