しみじみと良いビアパブであった。
「ざぶん」が、である。
午後九時の高崎市街は連休明けの週末のためか、
往来の人影はまばらで、その路肩には出動を待つ代行車が列をなしていた。
入口の賑わいをくぐり、ドブネズミのように店内の隅の席へ行こうと
目論んでいたのだが、一瞬で堀澤さんに見つけられてしまい、
カウンター真中の席へ案内された。
店内のしつらえから、料理に一杯の麦酒まで、隙が無かった。
路地裏の赤提灯では隙だらけの堀澤さんの店は、いつも隙が無い。
「そこは特等席なんですよぉ」
私のためにカウンターの席をひとつ横に移動する羽目になり、
その特等席を横取りされた、酔っぱらいの姉さんが、怪しい呂律で私に言った。
この人もまた、隙だらけである。
お品書きの麦酒を、上から順に頼んでは、飲む。
そのうちに、酔っぱらいの姉さんは結局、特等席に戻り、
私はその姉さんの席へ着くことになっていた。
席を移動すると、姉さんが平目の刺身を一枚くれた。
すべての種類の麦酒を堪能し、店を出た。
出際に、丁度いまから入店するすーさんとも会え、
往来を吹く夜風が、一層心地よくなった。

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