「はっ」
として、走行中に思わず急ブレーキを掛け、車を減速させる事が、最近しばしばある。
原因は猫である。
それも、飼い猫と思しき、毛並みの良い良家の子息。
車道を走行中、前方を横切る猫が一匹。
「車に気付いて逃げるだろう」
などと、こちらも高を括っているので、減速せずに猫との間隔が狭まって行く。
しかし、その猫、一向に逃げる気配無く、悠々と車道を横切っている。
間隔が、目測での限界領域に達した刹那、堪りかねてこちらがブレーキを踏む。
その音に驚き、目ん玉を丸くし、重たそうなお尻を振りながら、脇の茂みに消えて行く。
大抵、その手の猫は肥え太っており、大きな顔の下に、
窮屈そうに首輪なんか付けている。
そして、その愚鈍な挙措からは、動物的反射神経の著しい退化が確認できる。
つまりは、飼い馴しすぎた弊害が、敏捷性に及んでいるのだ。
子供時分、自らが拾ってきた子猫を、飼っていた。
家に来た当初、食が細く、体も痩せ細っていたので、取り分け、大切に育てた。
それから猫は、健康的に活発に育って行った。
ただ、飼い猫特有の、緩慢な動作でおっとりとした猫になってしまった。
けれども、そこが愛くるしくもあり、皆に好かれた。
人間で言えば壮年期位であろうか、つまりは、気力体力共に充実し、
これから猫社会を、力強く生き抜いて行こうと言う年頃。
その猫は、ある日、呆気無く死んでしまった。
家に訪れていた客人の車の下で居眠りをしていて、轢かれてしまったのだ。
私が学校から帰って来た時には、もう、土の中に居た。
小さく盛り上がっている土を眺めながら、ぼんやりと、
土の中で丸まって寝ている姿を想像して、泣いた。

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