527声 街角のサポーター

2009年06月10日

現在、テレビに映っているのは、ピッチ上で試合後の会見を行う、
サッカー日本代表メンバーたちの、渋い表情である。
カタールと、一対一の引き分けで終わった試合。
先程まで、オリオンビールを飲み、文庫本を読み、ながら気も漫ろに観戦していた。
遠くで聞こえる蛙の大合唱が、恰もサポータ陣の大声援の如し。
マイクの前で、引き分けに終わった事を悔やむ、メンバーたち。
後悔の念を吹き飛ばす様に、力強くさんざめく、サポーターたち。

話は飛んで本日、昼に入った食堂での事。
暖簾をくぐったのは、正午過ぎ。
店内にいた先客の4組は、全員漏れなく、呑んでいた。
入口付近の席に座っているのは、作業着姿の40年輩の男性と、水商売風の40年輩の女性。
平日の真昼間から、焼酎のボトルを開けて、ロックアイスで割って呑んでいる。

私は、アウェー感をひしひしと背中に感じつつも、
そそくさとモツ煮定食を注文し、ワシワシと丼飯を掻き込んで行く。
隣の席、出涸らしの風情漂う、初老のおやっさんがのそのそ立ち上がり、
会計を済ませる。
呑んでいたのは、どうやらハイボール。
それにしては、血色の悪い顔をぶら下げて、開け放たれた入口から、
往来へ出て行った。
入口を出る瞬間に踵を返して、血色の割に晴れやかな笑顔を作り、
「おれ、2杯じゃなくて、3杯飲んだ」
と、女将さんに向かって、朴訥に申告したのだ。
おやっさんは、もう1杯のハイボール代金300円を女将さんに渡し、
のそのそと往来に戻って行った。
おやっさんが入口を出る瞬間に、横に座っていた、赤ら顔の作業着が声を掛けた。
「おじさん、偉い!」
私は、おしんこを噛み締めながら、「もっともだ」と呟いた。