NHK朝ドラの「カーネーション」を憶えているだろうか?
ちょっと丸い鼻で気丈な小野真千子さんが
主演だと聞いたときは、近所のおじさんみたいに
嬉しかった。
僕は、わりと田舎に暮らしていると思う。
少し坂を上れば、嵩山(たけやま)より先は緑、
「日本で最も美しい村連合」にも加盟された山村が広がる。
スクリーンの中にありありと山村を観たのは、
河瀬直美監督の『萌の朱雀』が初めてだったかもしれない。
家族を扱った短編ドキュメンタリーで
山形国際ドキュメンタリー映画祭の注目を浴びた
若き女性監督は、名カメラマンの田村正毅氏らと共に、
自身の故郷に近い奈良県・吉野の山村を撮った。
その映画の主演を務めたのが、吉野村に暮らしていた
素人の女の子、小野真千子さんだった。
『萌の朱雀』で描かれるのは、
山村の家族が営む小さくも暖かな家族の、緩やかな解体。
時が過ぎるにつれて田舎から人が減っていくという話である。
言葉にするとただただ寂しい物語だが、
吉野村の圧倒的な緑と、素朴な登場人物が、
映画を豊かにしている。
この作品はカンヌ映画祭で新人監督賞を獲った。
小野真千子さんは、実に素人っぽく、でも瑞々しく
映画の中で演技をしていた・・というより、暮らしていた。
この作品以降、僕は河瀬監督のファンになったから、
その後の河瀬作品で見る小野さんの成長ぶりも、
まるで近所のおじさんのように微笑ましく見ていた。
今はもう僕の手を離れ(おいおい)立派な映画女優である。
僕は、わりと田舎に暮らしていると思う。
それを誇れる気持ちになったのは、若き日に観た
『萌の朱雀』の影響もあるのだと思う。

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