正午過ぎ、私は上野村にいた。
川の畔をほっつき歩いていると、前から歩いて来た男に声を掛けられた。
「うどん屋さん、お休みですか」
成程、此処は、往来沿いに在るうどん屋から、直ぐ下の川だ。
私の事を、地元の人間と思い、声を掛けたのだろう。
「定休日は水曜の筈ですが、やっていませんでしたか」
今日は火曜である。
「名店のしきたり」に掲載させて頂いたうどん屋なので、定休日は知っていた。
「それが、やっていないみたいなんです」
川の畔から、往来へ上り、店先まで来てみると、「本日休業」の看板。
「残念でしたね、臨時休業みたいです」
「はい、また次回、来てみます」
その男は、がっくりと肩を落とし、脇に止めてある大型バイクへ戻る。
ナンバープレートを見ると、「豊橋」から来ている様だ。
バイクを見送って、また川の方へ引き返すと、
背にバイクの排気音が近付いて来た。
先のバイクが戻って来たかと振り向くと、別のバイク。
250ccの小柄なアメリカンタイプのバイクで、
シートには野営道具と思しき一式が括りつけてある。
私を発見すると、近くまで徐行して来て停車し、
エンジンをかけたまま、ヘルメットのカウルを上げ、大声で尋ねる。
「うどん屋さん、お休みですか」
「残念でしたね、臨時休業みたいです」
すると、その青年は、肩をがっくり落とし、また、来た路を戻って行った。
ナンバーは「青森」だった。
敷地の脇に在るベンチに腰かけ、
炎天下に響く、涼やかなせせらぎの音に、暫く耳を傾けていた。
すると、坂の下から、今度は2台。
しかし、うどん屋さんは、お休みである。