589声 うどん屋さんのお休み

2009年08月11日

正午過ぎ、私は上野村にいた。
川の畔をほっつき歩いていると、前から歩いて来た男に声を掛けられた。
「うどん屋さん、お休みですか」
成程、此処は、往来沿いに在るうどん屋から、直ぐ下の川だ。
私の事を、地元の人間と思い、声を掛けたのだろう。
「定休日は水曜の筈ですが、やっていませんでしたか」
今日は火曜である。
「名店のしきたり」に掲載させて頂いたうどん屋なので、定休日は知っていた。
「それが、やっていないみたいなんです」
川の畔から、往来へ上り、店先まで来てみると、「本日休業」の看板。
「残念でしたね、臨時休業みたいです」
「はい、また次回、来てみます」
その男は、がっくりと肩を落とし、脇に止めてある大型バイクへ戻る。
ナンバープレートを見ると、「豊橋」から来ている様だ。
バイクを見送って、また川の方へ引き返すと、
背にバイクの排気音が近付いて来た。
先のバイクが戻って来たかと振り向くと、別のバイク。
250ccの小柄なアメリカンタイプのバイクで、
シートには野営道具と思しき一式が括りつけてある。
私を発見すると、近くまで徐行して来て停車し、
エンジンをかけたまま、ヘルメットのカウルを上げ、大声で尋ねる。
「うどん屋さん、お休みですか」
「残念でしたね、臨時休業みたいです」
すると、その青年は、肩をがっくり落とし、また、来た路を戻って行った。
ナンバーは「青森」だった。
敷地の脇に在るベンチに腰かけ、
炎天下に響く、涼やかなせせらぎの音に、暫く耳を傾けていた。
すると、坂の下から、今度は2台。
しかし、うどん屋さんは、お休みである。