598声 サマー・ライダー

2009年08月20日

「夏休み」
社会人になってからは、遠い昔の思い出の日々である。
運転中、脂汗を拭いながら、温い缶珈琲を啜っていると、沿道。
楽しそうに自転車を漕いで行く、こんがりと日焼けした中学生と思しきカップル。
自らの、遠い夏の記憶と相まって、回顧的かつ感傷的な気持ちになる。
清々しい彼等。
缶珈琲と二日酔いで、胸やけの私。
それぞれの夏。
毎年、夏になると、沿道で頻繁にすれ違うのは、この手のカップルだけで無く、
バイカーたちである。
それは、県内でも特に山間部が多い。
大型バイクを沿道に停車し、地図などを眺めている。
野営道具を後部座席に括りつけてられており、ナンバープレートは、遥か彼方の住所。
そのサングラスをかけたバイカーは、今、まさに、旅路の途中なのである。
そんな人たちとすれ違う際、無意識に羨望の眼差しを送っている。
ボキャブラリーの無い私は、直ぐに、映画「イージーライダー」のイメージと直結する。
映画冒頭部分、これから主人公の二人、長い旅路に出る際、
ハーレーに跨ったピーター・フォンダが、付けていた腕時計を外し、キスして投げ捨てる。
地面に落ちた腕時計のワンショットが映る。
次のカットは、排気音を轟かせながら、砂埃の荒野に走り去って行く、
ピーター・フォンダとデニス・ホッパーの後姿。
そして、ステッペンウルフ。
お馴染みのギターリフが炸裂。
自由へ向って疾走していた意識は、右ポケットの振動で呼び戻される。
ポケットから取り出すのは、携帯電話。
運転席の窓を開けて、「ポイッ」
ってのが、当然、出来る訳も無く、慌てて耳へひっ付け、
「はい、抜井です」
と言う具合になる。
自由への道のりは遠い。
Yeah Darlin’ go make it happen