「夏休み」
社会人になってからは、遠い昔の思い出の日々である。
運転中、脂汗を拭いながら、温い缶珈琲を啜っていると、沿道。
楽しそうに自転車を漕いで行く、こんがりと日焼けした中学生と思しきカップル。
自らの、遠い夏の記憶と相まって、回顧的かつ感傷的な気持ちになる。
清々しい彼等。
缶珈琲と二日酔いで、胸やけの私。
それぞれの夏。
毎年、夏になると、沿道で頻繁にすれ違うのは、この手のカップルだけで無く、
バイカーたちである。
それは、県内でも特に山間部が多い。
大型バイクを沿道に停車し、地図などを眺めている。
野営道具を後部座席に括りつけてられており、ナンバープレートは、遥か彼方の住所。
そのサングラスをかけたバイカーは、今、まさに、旅路の途中なのである。
そんな人たちとすれ違う際、無意識に羨望の眼差しを送っている。
ボキャブラリーの無い私は、直ぐに、映画「イージーライダー」のイメージと直結する。
映画冒頭部分、これから主人公の二人、長い旅路に出る際、
ハーレーに跨ったピーター・フォンダが、付けていた腕時計を外し、キスして投げ捨てる。
地面に落ちた腕時計のワンショットが映る。
次のカットは、排気音を轟かせながら、砂埃の荒野に走り去って行く、
ピーター・フォンダとデニス・ホッパーの後姿。
そして、ステッペンウルフ。
お馴染みのギターリフが炸裂。
自由へ向って疾走していた意識は、右ポケットの振動で呼び戻される。
ポケットから取り出すのは、携帯電話。
運転席の窓を開けて、「ポイッ」
ってのが、当然、出来る訳も無く、慌てて耳へひっ付け、
「はい、抜井です」
と言う具合になる。
自由への道のりは遠い。
Yeah Darlin’ go make it happen