610声 唐黍畑

2009年09月01日

盛夏の時分の唐黍畑は私の背丈よりも高く、すらりとした唐黍が、所狭しと生えている。
濃い日差しを浴び、青々と茂った唐黍畑を眺めていると、眼球が青く染まり、
瞼の裏に色が残る様だった。
今日、その唐黍畑の横を通り過ぎ、目を見張った。
あの、青々とした唐黍畑は見る影も無く、枯れ、萎れ、色が抜けている。
僅かに夏の色を残す西日に、寄る辺も無く照らされる、即身仏たち。
時折吹く秋風が、乾燥して固くなった葉を、カサカサ鳴らして行く。
辺りには、鈴を打つ様にコオロギが鳴いていた。
一筋の風が、一枚の葉を空へ運び、湾曲したその葉は、バレエダンサーの如く、
回転しながら虚空を舞った。
そして、風の筋から外れると、力尽きた様に、可愛げも無く、枯畑に落ちた。
憂うべき事有り、飛び去る烏を、睨む。