612声 缶詰生活 前編

2009年09月03日

先日、昼飯時の軽食堂でメニューを選んでいた。
その際、ふと、そろそろ夏も終わりだと思った。
だとすれば「これで食い納め」と思い、冷やし中華を注文した。
出てきた冷やし中華の隅には、ちょこんと、鮮やかな蜜柑の粒が3個、添えてあった。
その色、形から、缶詰の蜜柑だと思い、食べて確信。
非常に、懐かしい風味が、思い出を回想させた。
高校を卒業し、実家を出て他県で独り暮らしをしていた時分、まず食が困った。
「これからは自炊だ」
って言ったって、それまで料理などした事も無い。
米だって満足に炊けない始末で、おかずを作るなんて、毛頭考えられない。
そこで重宝したのが、缶詰である。
これはもう、料理もへったくれも無い。
「ベコ」っと蓋を開ければ、中には、絶妙な味付けの鯖の味噌煮やら、
焼き鳥やらが入っている。
食べ終わったら、缶を捨てれば良いだけで、後片付けも簡単。
この文明の利器は素晴らしい。
おまけに安い。
と来れば、買わない手は無い。
現代人である事に感謝しつつ、来る日も来る日も、大量に購入してある缶詰を食べ続けた。
しかし、この順風満帆な缶詰生活に、或る日、一抹の不安が去来した。
それは、「あまりにも栄養バランスが悪いのではないか」と言うもの。
逆説的に言えば、栄養の、しかもバランスの事を注意を回せる様な余裕が、
生活に出てきたと言う事。
つまりは、余裕ある不安なのである。
これは直ぐに解決した。
その解決方法は、蜜柑の缶詰を食べる事。
やはりこの時期、私は一種の缶詰中毒になっていたようである。
蜜柑には「ビタミン」が含まれている。
その類の栄養素を漠然と摂取していれば、まず健康に問題は無いだろうと言ういう、
浅はか極まりない解決法である。
次日、買い出しに行った際、おかずの缶詰の他に、蜜柑の缶詰を大量に購入し、
意気揚々と帰って来た。
明日へ続く。