3501声 蟹の抜け殻

2016年06月09日

土砂降り、であった。
派手に濡れながら駅へ到着すると、それ以降は小降りになり、
昼前には止んでしまった。
通勤時間帯だけ降られてしまい、なんとも巡り合わせが悪いが、
梅雨とはこういうものであろう。
じめじめした衣服や靴で過ごす一日は、気が滅入るものだ。
気散じに炭酸飲料でも買おうと入ったコンビニで、
「クロワッサン」なる女性誌を手に取った。
私に似つかわしくない雑誌と言うことはひとまず置いて、
中の一つの記事に目が留まった。
それは、古美術鑑定士である中島誠之助氏のインタビュー記事であった。

 

「お宝紹介」のような企画で、氏のそれは「蟹の抜け殻」とのこと。
写真も掲載されおり、いくつもその完全に近い抜け殻を保管しているのである。
しかも抜け殻は一匹の蟹、つまり、利根川の河口で捕まえて中島家でペットとして飼われていた、
「ニーカちゃん」のものなのである。

 

蟹の脱皮は、毎年一度夏至の時分で、脱皮した殻を直ぐに「収集」し、
ティッシュで水気を切って乾燥させていたらしい。
直ぐに、というのは蟹の殻はカルシウムで出来ているので、
脱皮した殻を自身で食べてしまう習性があるからなのだ。
このニーカちゃん、なんと十七年間も生きていたとのこと。
そして、いまも中島家の冷凍庫に安置されているのである。

 

停電になったと思うと、と言う氏の心配を読み、思わず噴出してしまった。
女性誌を読んで、こんなにも笑えるとは。
しかも、心地よい笑いである。
大いに清々しい気持ちになり、炭酸飲料を買うのも忘れ、コンビニを後にした。