654声 旅行けば横丁のおでん屋に故郷を見る

2009年10月15日

味の染みた、厚切り大根。
よく煮しまった、がんもどき。
こう夜が冷え込む時期になると、おでんの事を考えてしまう。
現に先日、近所の居酒屋に行くと、お通しに小鉢のおでんが出て来た。
私は上州人なので、おでんと言えばごく普通の、コンビニおでんを思い浮かべ、
これと言ったこだわりも無い。
しかしこれが、静岡の人となると話が一筋縄でいかない。
静岡と言えば、日本屈指のおでん大国。
地元の「静岡おでんの会」が作った、
「静岡おでんの五ヶ条」に基づいて定義される静岡おでんとは、
まず黒はんぺんが入っている事。
黒いスープである事。
串に刺してある事。
青のり・だし粉をかける事。
そして、駄菓子屋にある事。
最後の駄菓子屋にあるってところが、月島のもんじゃ然り太田の焼きそば然りで、
土着のソウルフードと言った感がある。
私も去年、「おでんの聖地」と言われている「青葉横丁」へ行き、
紺暖簾を潜って来たのだが、味、値段、そして何よりあの雰囲気を気に入った。
その時、L字カウンターで居合わせたおやっさんは、わざわざ東京から新幹線に乗って、
この静岡おでんで一杯やりに来るのが、ささやかな楽しみだと言っていた。
そして、その店の女将さんは、昔太田に住んで居た事があったとの事。
なんとおやっさんも絵が好きで、伊香保に寄った時は、
必ず竹久夢二伊香保記念館へ行くのだそうだ。
群馬県から来た、一見旅客の私と、おでん屋の女将と、その常連。
見ず知らずのお互い、湯気の向こうに奇妙な接点の糸を見た、夜があった。