657声 湯は故郷

2009年10月18日

栃木県の銭湯に手を出している。
昨夜は、足利市にある「花の湯」へ入って来た。
整備された小路に、堂々たる破風を構える大型の銭湯で、
規模、建築様式共に、群馬県では類を見ない。
しいて言えば、高崎市の浅草湯が近しい。
豪奢な造り。
と言える銭湯で、かつての街の栄華が窺い知れる。
室内に使用されている木材。
浴室、章仙の九谷焼のタイル絵。
そして、ペンキ絵は壁一杯に描かれており、首を傾けて見る、壮大な眺め。
戦前の気風を感じつつ、歯を食いしばって、熱い湯船に浸かっていた。
脱衣場で出会った地元のおやっさんと、小一時間ばかり語った。
子供時分の銭湯の事、花街の事、昭和初期の事。
「面白くねぇ」
ってのが、その初老のおやっさんの口癖で、それを連発しながら、
現代の街は面白味に欠けると嘆いていた。
戦前の「カフェー」に行くのがおやっさんの夢で、
この決して叶わぬ夢へ、パンツ一丁で思いを馳せていた。
もし、花の湯が終焉を迎え日が来たら、浴室のタイル絵を貰う約束をしているんだ。
そう言って笑うおやっさんの笑顔は、昭和30年代に、
この花の湯へ入っていた洟垂れ小僧の頃と変わらないのだろう。
湯は故郷。
故郷に会える街が、在って欲しい。