674声 立ち食いの美学

2009年11月04日

空気感が既に冬である。
冬は空気が澄んでいると言うが、成程、山間に沈む夕日の残照は宵闇の深い青に溶け、
彼方に見える街の灯は、煌びやかな宝石の如くに光っている。
山は四季を映す。
一気に寒くなったものだから、テレビや雑誌なんかも、
慌てて「鍋特集」なんて企画をこぞってやっている。
確かに鍋も良いが、今時期はうどんも良い。
「うどん」と言っても、旬はやはり、駅の立ち食いうどんであろう。
寒風吹くホームで啜る、かけうどん。
少しでも温まろうと、七味なんか多めにかけたりして、ズーズー言いながら手繰り込む。
電車の音やら雑踏の音やら、駅のホームは何かと慌ただしいので、
うどんがズーズー言ってようが、鼻がズーズー言ってようが、誰も気に止めないのである。
ズーッと汁を飲んで、コップの水をツーッと飲み干す。
すると、丁度乗る電車が入線して来る。
ってのが、立ち食いの美学、玄人の技。
いささか貧乏臭い玄人だが、これが素人となると貧乏どころか、けしからん。
かく言う私も、以前、電車待ちの時間が無いにも拘らず、立ち食いうどんを食べていた。
慌てに慌てて、「ズーズーッ、アチアチ、ズーズーッ、アチアチ」と、
熱くて食べる速度が鈍くなってしまう。
そうこうしている間に、電車が入線し、ドアが開く。
器の中には、うどんが未だ半分残っている。
うどんを取るか電車を取るか。
どちらにせよ、立ち食いうどん界における、けしからん結末となる。