722声 煤払いとツケ払い

2009年12月22日

早すぎかと思い、時計の針を見ると、あれ、そうでも無い。
私の目が覚めるのが早いのでは無く、お天道様が登って来るのが遅いのである。
今日は冬至。
一年の間で最も、昼が短く夜が長くなる日。
だから、日の出が遅いのだ。
冬至の日は、各地でゆず湯。
と言うテレビニュースを見ていた、正午。
私は、下仁田町の路地裏に在る、鄙びた大衆食堂のL字カウンターに腰掛けていた。
年の瀬、客入りは多い。
どうやら皆、店の大将やおばちゃんに、年末の挨拶がてらに顔を出しているようである。
入って来たのは、白いつなぎを着たおやっさん。
ポケットから徐に、一万円札を二枚出して、おばちゃんに渡す。
「はい、ありがとうございます、あれ、でも少し多いよ」
「いや、いーからいーから、それでまた食わしてくんな」
「あー、いや、すいませんねぇ」
「うん、じゃあ、タンメンと餃子ね」
とのやり取りから推察するに、「ツケ」ではなかろうか。
常連客のつなぎのおやっさんは、その都度の飲食代を現金で清算せずにツケておき、
盆と正月に払っていると言う線が強いだろう。
いくら顔馴染だとは言え、ツケで食べられる店と言うのは、現代においては稀有である。
貴重な年末の光景と、温かな心のやり取りを見れた。
と、胸内で感心しながら、湯のみの緑茶を啜る。
テレビのニュースが丁度、高崎白衣観音で煤払いが行われたと言う、
郷土のニュースを報じた。
ツケ払いの済んだおやっさんは、油の染み込んだ手で頬杖を付いて、テレビを見ていた。