726声 斜陽琴

2009年12月26日

太宰治の小説作品、「斜陽」の舞台となった別荘。
と言えば、神奈川県小田原市曽我谷津の「雄山荘」である。
地元出身である実業家の別荘として建築され、
昭和22年2月に、太宰自身が一週間滞在し、同小説を執筆したゆかりの場所である。
先程のニュースによると、今日の午前4時過ぎ、出火、その木造2階を全焼。
けが人は無く、放火の疑いもある模様。
太宰治、生誕100年の今年。
最後の最後に来ての、寂しい事件である。
斜陽と言えば、主人公であるかず子の母の如く、
スープを一さじ、ヒラリと小さな唇に滑り込ませる様な、
所謂「貴族」気質な人を見た事がない。
一番の原因は、私個人の生活環境に起因すると思うのだが、
それにしたって見ない。
逆に、主人公の弟である直治気質の人間なら、多く見る。
勿論これも、生活環境に起因する。
裕福。
つまり、潤沢な資産を持ち、生活、心身ともにゆとりある人。
と、貴族である人とは、共通項はあってもイコールでない。
俗な例えしか浮かばないが、一応、貴族と呼べる人の所作を例えてみる。
例えば、煙渦巻く屋台の焼鳥屋のカウンターでも、いやな顔一つせず、
むしろ上品と言える所作で、焼き鳥の串を口へ運べる人。
補足すると、焼き鳥の串を持って、箸で一つ一つ器用に皿へ取ってからつまむなんてな、
野暮な事をしなくても、と言う事。
戦前戦中に生まれた世代の人に、その気質を感じる。
つい、昨晩の事。
端唄、独々逸の発表会兼クリスマスと忘年会の要素を含んだ打ち上げ、に参加した。
その発表会で、琴を雅やかな音色で弾いてらした、独りのご婦人。
生まれは、戦中かと思われる。
いつも着物を召していて、何度か会話した事があるが、その方の所作言動を見ていると、
この斜陽のかず子の母を思い出す。
そんな事を思っていた矢先の、ニュースだったので、ちと感慨深い。