727声 縁側でひと眠り

2009年12月27日

粉だらけ。
そのジーンズに、所々こびり付いている餅を爪で取っている。
餅つき、をしたからである。
私には祖父母がある。
近年、めっきり弱ってしまって、毎年恒例の餅つきも、
夫婦だけでこなすには困難になってしまった。
そう言う訳で、孫の私に白羽の矢が立つ羽目になった。
餅つき。
っても、現代は機械で出来るので、世話は無い。
一昼夜浸漬させたもち米を蒸し、餅つき機で捏ねて、型にのす。
そして一晩寝かせれば、のし餅の完成である。
「べローン」、「ビローン」と粘る餅を型に入れ、打ち粉をふって、
のし棒で均等にのしてゆく。
確かにこれ、結構な重労働である。
作業は順調に進み、小言を言われることも無く、最後に鏡餅を作って、無事終了。
そして、祖母が言う。
「これ、明日、仏壇の前に半紙を敷いて、お供えするんだよ」
「はいはい、じゃあ、今日から供えとくよ」
「今日じゃ駄目なんだよ、今日は、仏滅だからねぇ」
「あー、そう、本当だ、カレンダーに書いてあるね」
時折触れる、年寄りのそう言った、血に溶けたささやかな信仰には、
驚きと同時に新鮮な印象を受ける。
一息付くと、陽はもう午後に傾いていた。
祖父は縁側の隅で、厚い老眼鏡を掛け、丹念に新聞を読んでいる。
ふと、祖母に午後の予定を聞いてみた。
縁側の日だまりに出してある、背もたれ椅子に腰掛けて、ひと眠りするのだとさ。