3896声 テント芝居

2017年07月08日

観客が見つめる小さなステージ。ふいに、背景の布がバッと開かれる。その奥には夜の闇、の奥には明かりが消えたメリーゴーランドが見える。すると、劇団員が二人、妖怪一反木綿のように幅広い大きな白い布を旗のように掲げながら、照明が当たるステージから奥の闇の中へと駆け出していく。その意味はよくわからないけれど、映像ではなく自分の目と体を通して観るからこそ湧き上がる感情があった。その瞬間こそが、芝居だ、と思った。

 

今夜は、前橋「るなぱあく」で行われた「劇団どくんご」の野外テント公演を観に行った。芝居を観るのも久しぶりだし、野外テントで観るのはこれが始めて。劇団員たちは数日前に前橋入りし、自分たちで骨組みから客席作りから行ったとのこと。開演前にはド派手なピエロのような芝居衣装を着た劇団員たちがチケットの販売までもしていた。

 

芝居の内容は、先に書いたように物語中心というよりは断片的な詩の世界が役者や舞台装置によって次々にたたみかけられるような、言葉は古いかもしれないが前衛的な芝居だった。けれど頭の中には?マークが浮かびつつも、部分部分で笑いや郷愁やアクションを挟むので、客席のこどもたちも食い入るようにその芝居を観ていた。むしろ頭で考えないこどもたちの方が残る印象は大きかったかもしれない。

 

「テント小屋はあさってにはなくなる。こどもたちにこういうものを見せてやりたかったんだよ。こういうことができる劇団はもう、どくんごくらいだからね」この公演の開催指揮をとったフリッツアートセンターの小見さんに帰り際挨拶をすると、彼はそう呟いた。僕は一人、明かりを落とした小さな遊園地を去る。目を閉じるとまだ、大きな白い布が脳裏を駆けていた。