769声 昼下がりの三下がり

2010年02月07日

いささか風が強く吹いているが、こう言う日は、かえって山が澄んで見えるので、
心持が清々しい。
温かい部屋で、青空に浮かんでいる千切れ雲を眺めている。
駘蕩とした、日曜日の午後。
我が記憶装置は、目の前の風景とは関連性の無い光景を、
スクリーン上映する癖があるようだ。
今も、思い出しているのは、昔住んでいた都会の、猥雑な活気ある商店街。
日曜日、穏やかな午後。
私はしばし、近所の商店街へ出掛けた。
自転車を押しながら、流れる人波に紛れ込む。
肉屋店頭から漂う、揚げ物の良い匂い。
婦人服屋の特売品ラックに群がる、昔の姉ちゃんたち。
老舗蕎麦屋の暖簾から出て来る、中折れ帽子のお爺ちゃん。
私は、歩く。
ベビーカーを押している、爽やかな若夫婦の隣、自転車を押しながら、歩いている。
不意に、そんな光景が思い出される、昼下がり。
私が糸をつま弾く度に、滴り落ちる、不協和音。
三下がりに合わせたつもりが、調子っぱずれの三味線の音。