3891声 ニッポン国vs泉南石綿村

2018年07月10日

シネマテークたかさきで『ニッポン国vs泉南石綿村』を観た。日本のドキュメンタリー映画の中で(ニッチな枠ではあるが)有名な原一男監督(『ゆきゆきて、神軍』、『全身小説家』など)が8年もの間撮影に費やしたドキュメンタリー映画だ。上映時間215分。途中休憩を挟む。

 

石綿=アスベスト。断熱材として使われていたそれが人に危害を及ぼす危険な材料で、その製造に関わった人たちが訴訟を起こしたということは、なんとなくニュースで見た記憶があった。けれどその程度である。被害者団体に近く寄り添った原監督は、被害者一人一人にインタビューをし、訴訟の様子も・・いかに国が他人事のように不誠実に対応するかも撮り続ける。

 

原監督は「アクションドキュメンタリー」が作風だと公言している。それは過去作において、戦時中の責任を負わず生活する元軍人を、殺す勢いで批判する奥崎謙三を主人公とした『ゆきゆきて、神軍』しかり、脳性マヒの所謂障害者と言われる人々が、同情の対象になるのではなく、社会に対して物申すという抗議行動を追った『さようならCP』しかり、実際アクション性のあるドキュメンタリー作品だった。

 

けれどこの石綿村では、被写体はいわゆる一般的な人々である。ちょっと泉谷しげる似の「泉南アズベストの会」代表が厚生労働省に押し入ろうとするシーンなどはあるが若干空振り。過去作に比べてアクション性は少ないように思える。けれど、「アスベストの生産仕事に誇りを持ち仕事に懸命だった人々が、肺を真っ黒にし、呼吸困難に陥り、常に酸素チューブを着けないと生きられない体になり、その理不尽さを抱えながら死んでいく」その過程の途中でのインタビュー映像だけで、僕が思うには十分にアクションしていた。

 

多くの人が行き来する街頭で、アスベスト被害に会った男性の奥さんが、通行人に演説する。「訴訟に加担することを夫に言った時、夫からは「俺は俺の仕事に誇りを持っていた。金だって十分に稼いだ。お前はそんなに金が欲しいのか?」と言われました。悲しい。私は、お金が欲しいんじゃありません。日に日に弱っていく夫の尊厳を守りたいんです」というような内容だ。であっても、足を止める通行人はいない。僕もその場にいたら通り過ぎているだろう。けれどカメラはけっこうなアップでその女性の演説を撮り続ける。すると、そのアップサイズでスクリーンでその演説を見ると、その女性の心が受け手に伝わるのである。

 

撮影期間8年か・・。原一男監督はまた、僕が日本映画学校に通っていた時の講師でもある。