912声 過去からの手紙

2010年06月30日

タイムカプセル。
それを彷彿とさせるのは、古本である。
古本を買うと、時折、発売時に折り込まれていたチラシやリーフレットを、
そのまま頁に挟まった状態で発見する。
特に文庫本に多いのだが、後世、賞を獲って名を成す作家の新刊本の告知など、
興味深い内容が多く掲載されている。
その中、「読者アンケート」の葉書も、高い頻度で発見する。
先も一つ、手を伸ばした文庫本の頁に挟まっていた。
これが、とても懐古的で思わず、頁を捲る手を止めて、まじまじと観察してしまった。
まず表面、まだ郵便番号が3桁の時代。
次に裏面、記入方式がマークシートなのである。
だから、用紙全体が心持、黄ばんだ様に見えるのは、
経年劣化でなくマークシート用紙と言う事になる。
高校受験や、大学入試センター試験などで、幾度となくお目に掛かっていた、
そして、余り良き思い出の少ない、あの用紙。
この葉書、今は無き、旺文社文庫から出てきた物である。
文庫は無くなれど、現在、旺文社は元気に営業している。
よって、この葉書に切手を貼って投函すれば、
宛先の「旺文社書籍局愛読者カード係」に届く事になる。
その係が無くなっていても、確実に旺文社までは届くのだろう。
出版業界隆盛の時代。
旺文社文庫には、他社と一線を画す玄人向け志向が垣間見え、
廃刊になった現代でも、古本屋で見かければ、手に取る事が多い。
内田百?の旺文社文庫シリーズは、未だに私の憧れである。
鉛筆でマークシートを記入して、投函して見ようか。
などと、葉書を眺めていると、酔狂な考えが入道雲の如く、もりもり増幅する。
「過去からの手紙」
なんて、一寸、オツなものではないか。
もっとも、旺文社の担当係の方は、迷惑するだろうが。