915声 紫靴下

2010年07月03日

昨日、首都圏に出る所用があったので、早朝、高崎駅から新幹線に乗った。
これが丁度、巷の通勤ラッシュと重なってしまい、駅構内は背広と学生服の洪水。
揉みくちゃになりつつ、新幹線口の改札を抜けると、
在来線口とは打って変わって、人も疎ら。
一足先にお盆がやって来たかの如く、穏やかに閑散としている。
もっとも、お盆休みの時は逆に、在来線よりも新幹線の方が満席と言う状況も多々ある。
平日のこの時間帯。
新幹線の乗客の大半は、新潟、あるいは群馬から、首都圏へ通勤だろう。
毎朝、田圃の畦道を、車でのろのろと通勤している身としては、
いささか羨ましく思える。
今、私の通路を挟んだ隣の列、一番奥の席に座った、背広の男性。
歳の頃、40がらみと思しき、サラリーマン。
暗色に薄いストライプ、その細身の洒落たスーツが、いかにも「都会の男」風である。
組んだ足の先から垣間見える、派手な紫色の靴下。
その先に付いている、焼き過ぎたコッペパンを思わせる細い革靴が、
忙しなく微動を続けている。
彼の全身からは、どこか怜悧な、都会の雰囲気が醸し出されていた。
この紫靴下男。
徐に背広のポケットから取り出したのは、iPhone。
やはり、都会に生きる者は時代の先端を求める。
などと思っていたら、今度は茶の革鞄を、ごそごそ。
次に、テーブルの上に取り出したのは、何とも旧時代的で無骨なCDウォークマン。
慣れた手つきでイヤホンを装着し、聞き始めたのである。
彼の一連の動作を横目で見つつ、胸中、咄嗟につっ込んでしまった。
「iPhoneで聞けよ」
紛れも無く、携帯音楽プレーヤーとしては、
CDウォークマンを凌ぐ機能を備えている、iPhone。
何故、そのiPhoneで聞かないのか。
CDウォークマンに、深い思い入れがあるのだろうか。
はたまた、聞く音楽が、英会話教材や自作楽曲作品等の、特殊なものであろうか。
まさか、使い方を知らない。
いやいや、この紫靴下に限ってそんな本末転倒な事は…。
思いは巡り、新幹線は駆ける。
窓の外。
流れる風景に目をやっているが、気になって仕様が無い。
慣れない行動は、いやはや、疲れる。