今日、勤めの帰りにショッピングセンターへ寄った。
この「センター」ってのはもう旧時代的で、巷では「モール」ってな事を言う。
今時のショッピングモールとやらは、何しろ入っているテナントの数が多い。
店内のパンフレットにて、確認すると、およそ170店舗らしい。
住み慣れた町で、私が地図を必要とするのは、この店内だけである。
ようやく、目当ての店を探し出して、足を止めた。
ここは帽子屋である。
手頃な「カンカン帽」を求めてやって来た。
今時は、そう昨年辺りから、若い女性の間で、このカンカン帽が、
爆発的な流行になっている模様。
雑誌を見ても巷を見ても、猫も杓子も、カンカン帽の娘だらけである。
然るに、この帽子屋で手ぐすね引いている若い女性店員も、被っているのである、
カンカン帽を。
そんな状況なので、どうにも邪推してしまう。
店員との噛み合わぬ会話を、である。
「こんにちは、今日はどんな帽子をお探しですか」
「へい、えぇ、カンカン帽を、ひとつ」
「カンカン帽ですね、こちらの品物などは、今夏流行の〜」
なんて言って、この店員が手にしているのは、明らかに女性用のカンカン帽。
「あぁ、いえ、プレゼント用ではなく、自分の、カンカン帽なのですが」
「えっ、お客様の、カンカン帽ですかぁ」
と言いつつ、訝しむ眼光を浴びて、たじろいでいる、自分。
そんな会話及び状況に怯えつつ、店員の目をかいくぐって、
店内の隅でこそこそと帽子を物色。
すると、商品陳列棚の上に、男性用と思しきカンカン帽がひとつ。
値札は、福沢諭吉に気を持った程度の価格。
「けっこう値が張るな」
などと、考えていたら、案の定、悪魔の囁き。
「こんにちは、何かお探しですか」
ギクリと狼狽しつつ、直ぐ前に陳列してある、洒落た中折れ帽子を手に取って答弁。
「えぇ、まぁ、良い帽子があれば」
「そうですか、良かったら、試してみて下さい」
差し出された鏡で、その帽子を被った自分の顔を映して見ると、
これがまた、似合わねぇでやんの。
「うぅん、まぁ、すこし、あれですな、そうかそうか」
煙に巻いて、そそくさと逃げ帰って来た始末。