925声 カンカン帽の娘

2010年07月13日

今日、勤めの帰りにショッピングセンターへ寄った。
この「センター」ってのはもう旧時代的で、巷では「モール」ってな事を言う。
今時のショッピングモールとやらは、何しろ入っているテナントの数が多い。
店内のパンフレットにて、確認すると、およそ170店舗らしい。
住み慣れた町で、私が地図を必要とするのは、この店内だけである。
ようやく、目当ての店を探し出して、足を止めた。
ここは帽子屋である。
手頃な「カンカン帽」を求めてやって来た。
今時は、そう昨年辺りから、若い女性の間で、このカンカン帽が、
爆発的な流行になっている模様。
雑誌を見ても巷を見ても、猫も杓子も、カンカン帽の娘だらけである。
然るに、この帽子屋で手ぐすね引いている若い女性店員も、被っているのである、
カンカン帽を。
そんな状況なので、どうにも邪推してしまう。
店員との噛み合わぬ会話を、である。
「こんにちは、今日はどんな帽子をお探しですか」
「へい、えぇ、カンカン帽を、ひとつ」
「カンカン帽ですね、こちらの品物などは、今夏流行の〜」
なんて言って、この店員が手にしているのは、明らかに女性用のカンカン帽。
「あぁ、いえ、プレゼント用ではなく、自分の、カンカン帽なのですが」
「えっ、お客様の、カンカン帽ですかぁ」
と言いつつ、訝しむ眼光を浴びて、たじろいでいる、自分。
そんな会話及び状況に怯えつつ、店員の目をかいくぐって、
店内の隅でこそこそと帽子を物色。
すると、商品陳列棚の上に、男性用と思しきカンカン帽がひとつ。
値札は、福沢諭吉に気を持った程度の価格。
「けっこう値が張るな」
などと、考えていたら、案の定、悪魔の囁き。
「こんにちは、何かお探しですか」
ギクリと狼狽しつつ、直ぐ前に陳列してある、洒落た中折れ帽子を手に取って答弁。
「えぇ、まぁ、良い帽子があれば」
「そうですか、良かったら、試してみて下さい」
差し出された鏡で、その帽子を被った自分の顔を映して見ると、
これがまた、似合わねぇでやんの。
「うぅん、まぁ、すこし、あれですな、そうかそうか」
煙に巻いて、そそくさと逃げ帰って来た始末。