930声 自腹の芸に御座候

2010年07月18日

昨日、黄昏時の電車内は混んでいた。
浴衣を着たお嬢さんもいれば、スーツを来たお父さんも居る。
皆、目的へ向かっているのだろう。
夏祭りやら、花火大会やら、家族団欒やら。
「バタン」
三味線のハードケースを倒して、車内の視線に刺されている私も、
勿論、目的へ向かっている。
目的へ向かっているのだが、私の場合、行き場所が無いからその場所へ行くのである。
何だか、コーンスープに浮いている唐黍の粒のように、幾らスプーンでかき回しても、
スープに混ざれない様な心持ち。
行き場所が無い人たちが寄り集まって、演芸会が始まって。
高座、風のステージへ、若き乙女から妙齢の女性まで、入れ替わり立ち替わり。
と書くと華やかな印象だが、合間に出てくる男衆が、キチンと水を差している。
三味線に箏が鳴るってぇと、漫談、落語、小唄に端唄。
カシオトーンから歌謡曲まで飛び出して、会場を灯す和ろうそくも短くなった頃、
いよいよ真打ちプロミュージシャンの大登場。
なめらかなアルペジオの調べと、甘い歌声。
しんみりと聞いているのは、酔いも目も覚ました、座の御一同。
拍手喝采に気付くのは、自分に決定的に足りないもの。
才能である。
演芸会のなんと面白きこと。
自腹芸のなんと心地好きこと。