めらめらと燃えていた木が、炭火になってちろちろと燃えている。
目を閉じると、我が胸中にそんな光景が想像できる。
その炭火の周りを、夜を徹してまで、輪になって踊り狂っている人たち。
延々と流れている演目は、勿論、「八木節」である。
昨夜、以前から告知していた「よなよな狂い咲き」と言う、奇妙な企画の為、
「桐生八木節祭り」へ出掛けて来た。
参加者は私を含め、3人。
桐生で合流した方が、4人。
計7人で、本町5丁目に設置された櫓の周りで、踊った。
桐生合流組に桐生人の方が居たので、その方を師と仰ぎ、踊り方を教えて頂いた。
もう10分も踊れば、心臓の鼓動も八木節のリズムで脈打っているかの如く、
体が自然と動いて、櫓の周りを周って行く。
毎年気になっていたのが、踊り手の掛け声。
今年こそは覚えようと、踊りながら耳を澄まして聞いていた。
いささか間違っているかもしれないが、私にはこう聞こえた。
「小原庄助さんはぁ、なんで身上潰したぁ」
「朝っ寝、朝っ酒、女が大好きでぇ、それで身上潰したぁ」
「あーもっともだぁ、もっともだぁ」
「いいや違う、いや違うぅ、あっそれぇ、いいやそうだ、いやそうだぁ」
「祭っりだ、祭っりだ、桐生の祭っりだぇぃ」
これを皆、大声で歌う。
可愛らしい小学生から、素敵な老境の御仁まで、汗みずくの真っ赤な顔して、
「朝っ寝、朝っ酒、女が大好きでぇ」
と歌うのである。
こんな素晴らしい光景は、群馬県内の祭りに類を見ない。
まさに、「狂」を「興」としていた。
「狂い咲き」
酔眼と汗に滲んだ目の前の光景に、それを見た。
櫓の周りで妖しく蠢きながら、よなよな狂い咲いた、花たち。
桐生に咲いた花は、なんと妖艶で、なんと扇情的で、
なんと浮世離れした色の花だったか。
筆舌に尽くし難い。
櫓の近くで踊っているのは、ひっつめ髪にねじり鉢巻きを巻いた、姐御風なお姉さん。
胸に巻いたサラシの白さが、どうにも目に焼き付いている。
羞恥をかみ殺して蛇足する。
帰路の途中、私、財布を無くしてしまった。
しかし、浴衣用の財布なので、中にはスイカ(食べる方じゃなくて)と現金のみ。
駅から、雪駄を引きずって、とぼとぼ帰る途中、思い出していたのは、
本企画の告知で書いた文章。
「そこで何かを得る。そして、金を失う」
書いたばっかりに、本当になってしまった。
いささか高くついた一夜だったが、因果応報である。
とほほ。
※赤い二つ折の財布ですので、見掛けた方は御一報下さい