951声 よなよな狂い咲き

2010年08月08日

めらめらと燃えていた木が、炭火になってちろちろと燃えている。
目を閉じると、我が胸中にそんな光景が想像できる。
その炭火の周りを、夜を徹してまで、輪になって踊り狂っている人たち。
延々と流れている演目は、勿論、「八木節」である。
昨夜、以前から告知していた「よなよな狂い咲き」と言う、奇妙な企画の為、
「桐生八木節祭り」へ出掛けて来た。
参加者は私を含め、3人。
桐生で合流した方が、4人。
計7人で、本町5丁目に設置された櫓の周りで、踊った。
桐生合流組に桐生人の方が居たので、その方を師と仰ぎ、踊り方を教えて頂いた。
もう10分も踊れば、心臓の鼓動も八木節のリズムで脈打っているかの如く、
体が自然と動いて、櫓の周りを周って行く。
毎年気になっていたのが、踊り手の掛け声。
今年こそは覚えようと、踊りながら耳を澄まして聞いていた。
いささか間違っているかもしれないが、私にはこう聞こえた。
「小原庄助さんはぁ、なんで身上潰したぁ」
「朝っ寝、朝っ酒、女が大好きでぇ、それで身上潰したぁ」
「あーもっともだぁ、もっともだぁ」
「いいや違う、いや違うぅ、あっそれぇ、いいやそうだ、いやそうだぁ」
「祭っりだ、祭っりだ、桐生の祭っりだぇぃ」
これを皆、大声で歌う。
可愛らしい小学生から、素敵な老境の御仁まで、汗みずくの真っ赤な顔して、
「朝っ寝、朝っ酒、女が大好きでぇ」
と歌うのである。
こんな素晴らしい光景は、群馬県内の祭りに類を見ない。
まさに、「狂」を「興」としていた。
「狂い咲き」
酔眼と汗に滲んだ目の前の光景に、それを見た。
櫓の周りで妖しく蠢きながら、よなよな狂い咲いた、花たち。
桐生に咲いた花は、なんと妖艶で、なんと扇情的で、
なんと浮世離れした色の花だったか。
筆舌に尽くし難い。
 
櫓の近くで踊っているのは、ひっつめ髪にねじり鉢巻きを巻いた、姐御風なお姉さん。
胸に巻いたサラシの白さが、どうにも目に焼き付いている。
羞恥をかみ殺して蛇足する。
帰路の途中、私、財布を無くしてしまった。
しかし、浴衣用の財布なので、中にはスイカ(食べる方じゃなくて)と現金のみ。
駅から、雪駄を引きずって、とぼとぼ帰る途中、思い出していたのは、
本企画の告知で書いた文章。
「そこで何かを得る。そして、金を失う」
書いたばっかりに、本当になってしまった。
いささか高くついた一夜だったが、因果応報である。
とほほ。
※赤い二つ折の財布ですので、見掛けた方は御一報下さい