959声 寄席の色

2010年08月16日

10時半から21時まで。
これは、先日私が、浅草演芸ホールで飽きもせずに演芸を観ていた時間である。
昼の部が10時半から4時半。
夜の部が4時40分から9時。
しかし、浅草演芸ホールなどの寄席は、昔の映画館の様に、
(その昔は映画館が寄席にならったのだろうが)
昼夜の入れ替えが無いので、気力と体力、そして暇があれば、「通し」で観れるのだ。
入場料は3,000円。
この日一日の総出演芸人数は46人。
一人当たりで割ると、65.2円で観れると言う事になる。
ってのは、もはや寄席では御馴染のマクラである。
しかしまぁ、日がな一日演芸漬けってのも、疲れるのだが、
日の暮れた夜の往来へ、一歩踏み出した時に得体の知れぬ充実感がある。
素直な充実感で無く、得体の知れぬ感覚が混ざっているのは、
先程まで、入れ替わり立ち替わり、得体の知れぬ人たちが出ていたからであろう。
私が観覧したのは、お盆真っ只中だったので、普段とは異色だった事だろう。
客筋が、である。
この時期は東京見物の一環として観覧に来るお客さんたちで、無論、混む。
私は一日場内で、観察していたのだが、この客筋がちと面白い様相であった。
右から入って来たのは、関西弁を炸裂させている女子高生と思しき4人組。
席に着くや否なや、ファーストフードのハンバーガーを食べ始めた。
左から入って来たのは、背の高い外人さんの夫婦。
新婚旅行で日本へ来たのだろうか、スタッフの方に、
ム−ビーカメラでの撮影を叱られている。
あちらに居るのは、爺ちゃん婆ちゃんと、その孫と思しき男の子。
無理やり連れて来られたのだろうか、寄席聞きながら漫画を読んでいる。
こちらに居るのは、艶やかな女物の浴衣を着ている女の方、否、良く見れば、男。
そう、ニューハーフの方が彼氏と観に来ているのだ。
多年齢かつ多性別。
そして、多国籍かつ多地方。
それらのお客さんが、一階席二階席とも、立ち見が出るほど満員の演芸ホール。
スナック菓子の油の匂い立ちこめる場内で、混然一体となって、
うごめきどよめきながら、笑っている。
このアヤシくも多彩な客色が無ければ、寄席ってのは、
ひどく精彩を欠く場所になるだろう。