991声 難攻不落の女 前編

2010年09月17日

「はい、抜井です」
「抜井さんのお宅でしょうか」
「はい、そうです」
「諒一さんは御在宅でしょうか」
「はい、本人です」
「左様ですか。私、結婚相談をさせて頂いております○○と言う会社の者ですが」
この類の電話が、2月に1度くらいの頻度でかかってくる。
私の個人情報をどこでどう調べたのか、甚だ疑問である。
しかし、私は元来、生活の中で自らの個人情報を軽んじている傾向があるので、
その疑問を、左程追求してみようと言う気も起こらない。
それよりも、自分がその類の会社の名簿の中に記載され、
営業の対象となっている事の方が、俄かに信じられない。
昔、私が現在の会社に入社したばかりなので、23,4歳の頃。
知人に当時、32,3歳くらいであった女性がいた。
何かの酒席での事、その女性、
佐々木さん(仮名)が自らの「婚活体験」を話し始めた。
多少酔っているので、雰囲気は慣れた小噺のようであった。
この、佐々木女史。
20代後半に差し掛かると、いよいよ、結婚を視野に入れた活動に勤しみ始めた。
友達の飲み会、知り合いの知り合いとして参加する合コン、
果てはお見合いパーティー。
一見すると、黙っていてもモテそうなタイプに見えたので、話が余計に面白い。
その中で、友達と参加したと或る飲み会での一件の話。
その日、佐々木女史はいつものように、友人二人と知り合いの男性二人が参加する、
謂わば、2対2の合コンの席に居た。
ビールで乾杯し、話も滞りなく進み、雰囲気も悪くない。
しかし佐々木女史、ある一点だけが、妙に気になりだした。
それは、相手の男性。
どうやら先輩と後輩の関係にあるらしい、後輩の方が、
佐々木女史にしつこく酒を勧める事。
佐々木女史も嫌いじゃない。
勢い良く杯を空けると、相手が踊りださんばかりに喜ぶ。
そして、喜んでいる後輩に、返杯。
さて、相手の勧めるまま、杯を空けて行く佐々木女史を待っていたものとは。
明日へ続く。
【天候】
朝より、鰯雲の浮かぶ秋空。
日中は薄日射し、いささか残暑の気配は消え気なぬが、終日、穏やかな秋晴れ。