992声 難攻不落の女 後編

2010年09月18日

昨日の続き。
佐々木女史。
そしてその友人共に、酒には滅法強い。
これが、男性陣敗北の一番の原因になってしまうのだが、話を進める。
何度目かの杯のやり取りの後、酒を進める後輩が、明らかに泥酔状態になってきた。
佐々木女史は、いつもの伝で、ビールジョッキ片手に平静を保っている。
ジョッキを傾けている佐々木女史の耳に入って来たのは、
呂律のもつれた男性陣の会話。
後輩が、先輩の方にしなだれかかって、なにやら耳打ちしている。
その声が、泥酔している事もあり、耳打ちから漏れ聞こえてくる。
「先輩、もうそーとー呑ましてるんですがね、相手のおんなども、
一向に潰れそうにないっすよ」
と言う様な塩梅の会話。
その瞬間に、否、佐々木女史と友人は、序盤から男性陣の魂胆に気付いていた。
つまり、「自分とその友人を酔い潰して、何かヨカラヌコトを企んでいるのであろう」と。
「それでどうなったんですか」
佐々木女史の酒癖を知っている私は、なんだか、男性陣に同情する様な心持で、
話のオチをせがんだ。
「友だちと呑み直して帰って来たわよ」
ビールジョッキを豪快に煽りながら、そう言い捨てた、佐々木女史。
男性陣は店で潰れてしまって、佐々木女史はそそくさと友人を引き連れ、
馴染みの店で飲み直して帰った、と言う。
なんとも、百戦錬磨の身のこなしである。
「そう言う場に居て、こわくないんですか」
一応、私は佐々木女史の後輩であるので、気を使って聞いてみた。
「アンタみたいなヒョロっちいのがいくら来ても、こわかないわよ」
私は、相手が悪かったと、ますます男性に同情すると共に、
二人組の仕掛けた、その安直な作戦を軽侮した。
そんな、とりとめもない昔の思い出話が、ふと思い浮かんだ。
時を経て、あの時佐々木女史の小噺に笑い転げていた私が、
現在は、結婚相談の勧誘を受ける年齢になってしまった。
その話を思い浮かべ、脳内劇場で芝居になぞらえると、
どうもその間抜けな後輩の役が、自分に適役のように思えてならないのである。
【天候】
終日、綿菓子の出来そこないの様な雲が、ぼんやりと浮かんでいた秋晴れ。
近隣の小学校でかいさいされているのであろう。
運動会の声が、風に乗って聞こえて来た。