4716声 庭の木

2021年03月17日

仕事に追われている風な生活をし続けているので、家のことは母親と姉に任せっぱなしが続いている。近年は会社に泊まることも多く、家には朝飯と、風呂と寝に帰るだけ。土日に1日家にいたのは正月くらいではないだろうか。

 

庭の手入れは生前父の趣味であり仕事だった。その父も亡くなって10年以上が過ぎ、その手入れを継いできたのは母である。力仕事も含まれるので本来なら僕がやることなのだが、家にいないことで無言で母に押し付けている。

 

高く太く伸びた木がある。さすがに母には切れないし、僕にも切れない。このまま伸びて倒れでもして、隣の家を壊してはいけないと母はずっと不安を言っていた。ので、重い腰を上げて、知り合いの木こりに切ってもらうように連絡をつけた。

 

その際、母から「うちには何本の木があるか知ってる?」と聞かれた。庭付き一軒家といってもそれほど広くない。大小合わせて7〜8本だと思っていた。その正解として、母は手書きのメモを僕に渡した。

 

葉先が赤くなる木
バラの木
赤い実がなる木
さんしょの木
バラの木
白つつじの木
白もくれんの木
八重桜の木
つつじの木
やまぶきの木
赤いつばきの木
もも色つつじの木
巨木の木
もみじの木
(読めない)の木
もみじの木
きんもくせいの木
高い木
さらの木
さらの木
なんてんの木
さざんかの木
ぐみの木
つつじの木
しゃくやくの木
おにつつじの木
まつの木
つつじの木
ぼけの木
まつの木
もみじの木
西洋しゃくなげの木
さるすべりの木
うめの木
ゆきやなぎの木
(以下、母が自分で切った木)
きんもくせいの木
まつの木
まつの木
西洋しゃくなげの木
うめの木

 

驚くべきことに、そこには切った木合わせて40本の木の名前があった。全く知らなかったし知ろうともしなかった。それは、父が本当に好きで植えたり手入れしたりしてきた記録であり、父なきあとに母ができるかぎりの手入れをしてきた記録であった。