1064声 歯磨き粉の色合い

2010年11月29日

つい先程、「子規句集 高浜虚子選」(岩波文庫)の頁を捲っていて、
目に止まった句が一句。

春風にこぼれて赤し歯磨粉

これは、子規の病状もいよいよ悪化して来た、明治29年春の句。
説明無用な写生句である。
しかし、一口で飲み込めない部分もある。
それは、子規と私の間にある、幾時代。
そこで変遷した、生活環境の違いだろう。

まず、「歯磨粉がこぼれる」と言う情景を連想すれば、
私には、チューブの練り歯磨き剤が、思い浮かぶ。
歯ブラシに、チューブの練り歯磨き剤をつけようとした時、
春風が吹いて、歯磨き剤をこぼす。
洗面台に、「ベトッ」と。
これじゃ、発句詠みたき心も何も、ありゃしない。

ここで、現代人の多くは、あの練り歯磨き剤の事を、
「歯磨き粉」と、誤った呼び方をしている事に気が付く。
粉末状の歯磨き粉主流時代の呼び方が、
練り歯磨き剤主流となった現代でも、そのまま生き残っている。
明治時代の歯磨き粉は、読んで字の如く、粉末状の歯磨き粉である。
しかも、子規御用達の歯磨き粉は、粉の色が「赤い」。
その色彩が、とても気になる。
鮮やかな赤色なのか、それとも、淡い、のか。
私は、「春風」から、こぼれた粉の、少し淡い色合いを想像している。

【天候】
終日、雲風共に少ない、穏やかな冬晴れの一日。