1069声 師走バス

2010年12月04日

「そして、今回一番の見所が銭湯シーン」
と言う、映画紹介の声を背中で聞いて、反射的に振り返る。
テレビ画面に映っていたのは、ハリウッド映画の宣伝。
何の事はない、只の聞き間違い。
「銭湯シーン」でなく、「戦闘シーン」だったのだ。
二日酔いの為に、脳内機能が麻痺しているのだろうか。

昨夜は、高崎市街地から最終バスに乗って、
住んでいる町まで帰って来た。
師走の最終バスと言うのは、やはり、酔っ払いが多い。
勿論、私も例外ではない。

私の斜向かいの席に、崩れかかった体勢で座っている、
赤ら顔のおやっさん。
ずり下がった眼鏡越し、瞬きもせずに見つめているのは、
ルービックキューブ。
黄色の面の最後の一つが揃わないらしく、「カチャカチャ」と、
音を立てながら熱中している。

ルービックキューブは未完のまま、バスは、
おやっさんの降りるべきバス停に到着してしまった。
ルービックキューブを外套のポケットに突っ込んで、立ち上がる。
すると、よろけて、向かいの席にしなだれかかってしまった。
苦しそう。
そして、今にも吐きそう。

車内の一堂、ハラハラしながら見つめていると、車掌さん。
「大丈夫ですか」
と、規則めいた声で問いかける。
「あ゛ぁ、酔ったぁ」
と、塩辛い声を吐き捨て、投げ捨てる様に小銭を料金箱に入れ、
降りて行った。

「そりゃそうだ」
大事に至らず安心しながらも、一寸、あきれていると、
バスが動き出す。
料金箱が小銭を集計している機械音が、車内に響いていた。

【天候】
日中、雲一つない冬晴れだが、風強し。