1193声 お見舞い

2011年04月07日

市街地の外れにある、左程大きくも、かと言って小さくもない病院。
そこに、祖母が入院したのは、一昨日。
その話を、両親から聞かされたのは、昨晩。
詳しい話を詮索せず、箸を休めないまま、
「取り合えず、明日、行ってみる」
とだけ、答えた。

流行らなそうな鄙びた和菓子屋で、和菓子の詰め合わせを、ひとつ買った。
それを、見舞いの品に携え、病院の入り口をくぐった。
昼さがりの病院は、閑散としており、受付には人も疎らだった。
テレビの声が響く中、忙しげに若い女性の看護師が、行き来していた。

二階へ上がると入院病棟になっていた。
病院特有の消毒剤のような匂いが、鼻をつく。
中央の受け付けを通り過ぎて、一番端の部屋から、
部屋の入り口にある、祖母の名前を探してゆく。
通路には、各部屋のドアが、開け放たれている。

そう言う病棟なのだろうか、入院患者は皆、お年寄。
患者同士で歓談をしたり、点滴を打ちながら寝ていたり、
それぞれの時間を過している。
私が部屋を覗きこむと、起きている人は、少し驚いた様な表情で、
じっと、私の顔を見た。
部屋に顔を入れた瞬間、室内の空気が、重く、淀んでいる様な感じがした。
ここでも、若い女性の看護師が、背の高い銀色の台車に薬品を載せて、
忙しく各部屋を回っていた。

祖母の名前は、一番奥の部屋にあった。
開け放たれた窓から入り込む、午後の柔らかい日差し。
春風がやさしく、薄緑色のカーテンを揺らしている。
カーテンの前、窓の桟に手を付いている御婆さんが、
やはり、少し驚いた様な表情で、私を凝視している。

一番入口に近いベッドで、祖母は今、寝ていた。
打っている、透明な点滴の効用か、子供のように、深く寝入っている。
正月に会った時から、随分と痩せた印象である。
その為、一目見た時は、ここに寝ているのは、別の人かと思った。
名前を確認してから見ても、腑に落ちなかった。

「おばあちゃん」
と声をかけようと思ったが、止めた。
ベッドの脇の机に、備品が置いてあるので、
午前中に見舞いが来たらしかった。
その脇に、先程の御菓子をそっと置いて、部屋を辞した。

薄暗い廊下から、階段を下りた。
祖母の部屋から、遠ざかって行く。
過去の、元気だった頃の祖母の映像が、瞼の裏に映った。
病院の外へ出ると、あまねく、春の光が満ちていて、
懐かしさが込み上げて、胸を刺した。

【天候】
終日、快晴。
風もなく、暖かな一日。