市街地の外れにある、左程大きくも、かと言って小さくもない病院。
そこに、祖母が入院したのは、一昨日。
その話を、両親から聞かされたのは、昨晩。
詳しい話を詮索せず、箸を休めないまま、
「取り合えず、明日、行ってみる」
とだけ、答えた。
流行らなそうな鄙びた和菓子屋で、和菓子の詰め合わせを、ひとつ買った。
それを、見舞いの品に携え、病院の入り口をくぐった。
昼さがりの病院は、閑散としており、受付には人も疎らだった。
テレビの声が響く中、忙しげに若い女性の看護師が、行き来していた。
二階へ上がると入院病棟になっていた。
病院特有の消毒剤のような匂いが、鼻をつく。
中央の受け付けを通り過ぎて、一番端の部屋から、
部屋の入り口にある、祖母の名前を探してゆく。
通路には、各部屋のドアが、開け放たれている。
そう言う病棟なのだろうか、入院患者は皆、お年寄。
患者同士で歓談をしたり、点滴を打ちながら寝ていたり、
それぞれの時間を過している。
私が部屋を覗きこむと、起きている人は、少し驚いた様な表情で、
じっと、私の顔を見た。
部屋に顔を入れた瞬間、室内の空気が、重く、淀んでいる様な感じがした。
ここでも、若い女性の看護師が、背の高い銀色の台車に薬品を載せて、
忙しく各部屋を回っていた。
祖母の名前は、一番奥の部屋にあった。
開け放たれた窓から入り込む、午後の柔らかい日差し。
春風がやさしく、薄緑色のカーテンを揺らしている。
カーテンの前、窓の桟に手を付いている御婆さんが、
やはり、少し驚いた様な表情で、私を凝視している。
一番入口に近いベッドで、祖母は今、寝ていた。
打っている、透明な点滴の効用か、子供のように、深く寝入っている。
正月に会った時から、随分と痩せた印象である。
その為、一目見た時は、ここに寝ているのは、別の人かと思った。
名前を確認してから見ても、腑に落ちなかった。
「おばあちゃん」
と声をかけようと思ったが、止めた。
ベッドの脇の机に、備品が置いてあるので、
午前中に見舞いが来たらしかった。
その脇に、先程の御菓子をそっと置いて、部屋を辞した。
薄暗い廊下から、階段を下りた。
祖母の部屋から、遠ざかって行く。
過去の、元気だった頃の祖母の映像が、瞼の裏に映った。
病院の外へ出ると、あまねく、春の光が満ちていて、
懐かしさが込み上げて、胸を刺した。
【天候】
終日、快晴。
風もなく、暖かな一日。