1268声 のっぴきならない季節

2011年06月21日

夏めく。
梅雨の中休みとなった今日は、まさにそんな陽気だった。
こうなって来ると、毎年懸念されるのが、巷で出くわす「昼麦酒」である。

群馬県内は気温30℃を越える、夏日。
湿度が高く、べたべたと、纏わり付く様な不快な暑さである。
そんな折、昼食で涼を取ろうと、道すがらの蕎麦屋に入った。
ほぼ満席の店内で、案内された相席のテーブルに着く。
向かいは、勤め人風ではない、カジュアルな格好のおやっさん。

ざる蕎麦を注文し、おしぼりで顔を拭う。
おしぼりから、視線を移すと、向かいのおやっさんの前。
今し方運ばれて来た、良く冷えた瓶麦酒が一本と、
おそらく、揚げたてであろう、カラリとした天麩羅盛り合わせ。

浅くくびれた、小さなグラスに、「トクトクトク」と、黄金色の麦酒を注いで行く。
みるみるグラスに生まれてゆく、細かい水滴。
純白な泡の、グラスから毀れ落ちぬ弾力。
それを、一気に飲む。
おやっさんの喉ぼとけが、ゆっくりと大きく上下する。
グラスを置く、注ぐ、また飲んで、天ぷらに箸を伸ばす。

拷問である、もはや。
こしの無い蕎麦をすすりながら、ひたすら、心頭滅却することに徹する。
もう蕎麦の味など、どうでもよくなって、伝票を鷲掴んで、
逃げ出す様に席を立つ。

レジで会計を済ませ、一安心。
と思いきや、目に入ったのは、レジの後ろに貼ってある、
一枚の色褪せたポスター。
若い女性モデルが、砂浜でキンキンに冷えていると思しき、
ビールジョッキを持って、こちらに微笑んでいる。
放心状態で、ポスターに見とれていると、
女将さんが邪魔くさそうに、私の前を横切る。

冷蔵庫から出した瓶麦酒を、机の上に置いた。
置かれた席には、空の瓶麦酒が一本と、
海老の天に齧り付いている、おやっさん。
今年もいよいよ、麦酒愛好者にとっては、
のっぴきならない季節の到来である。

【天候】
梅雨の中休みで、真夏日。
雲多く、晴れ間は少ないが、蒸し暑さ甚だし。