1285声 湯屋で一杯

2011年07月08日

向かいの家の、瓦屋根の照り返りが、目にしみる。
蒸し暑い部屋から、ぼんやりと眺める、窓の景。
いま、強烈なる二日酔いに、苛まれながら。

昨夜は、所用で桐生の銭湯へ出掛けた。
暖簾をくぐって、銭湯の中にある食事処で話していると、
当然、「まぁ一杯」と言う運び。
近所に住む、知り合いの方もいらして、「まぁ、一杯」。
その内、「かぁちゃん、焼酎もう一本」。
酔眼朦朧としてきたところで、桐生駅まで送って頂いた。

「最後の一軒になってもやる」
親父さんの力強い言葉に、とても感銘を受けた。
しかし、その言葉を言わしめている様な現状も、ある。
暖簾を下ろす銭湯が後をたたなくて、現在の残存数は二十七軒。
風呂に入って、手拭いのしぼり方を知らない日本人が増えるのは、
さみしい気がする。
しかし、そこには、それぞれの現実がある。

そんな事を考えながら、列車は新前橋駅に着いた。
改札を出たが、真っ直ぐ帰宅する心持ではなく、
千鳥足で階段を踏み外しながら、駅前へ出た。
目抜き通りを歩いていると、なにやら往来に人だかり。
近づいてみると、そこは居酒屋、である。
とても盛況なので、お客さんが入りきれないのである。

「お待たせしてすみません」
ぼんやりと立っている私の横へ、いつの間にか店のお姉がいて、
「生ビール中グラス無料券」を頂いた。
太っ腹なサービスに、頭を下げ、人気の秘訣も垣間見えた気がした。
閑散とした新前橋駅前ロータリーに於いて、稀有な賑わいである。

「さて」
踵をかえして、直ぐ隣の、チェーン店の居酒屋へ入った。
カウンターに座り、冷たい麦酒で一息つく。
先程の光景を、句に認めようと、句帳にペンを走らせた。
しかし、文字にならない文字。
その時、「相当きてるな」、と実感した。

【天候】
梅雨の晴れ。
湿度が高く、まとわりつく様な、暑さ。